世良が放課後になったとたん、いきなり質問しだした。
大雅?
誰だ、それ?
大雅という男子は、俺の方を向いて言った。
大雅は、俺に手を差し出した。
佐倉駅に着くと、大雅と俺は、改札口を出て方向確認した。
すると、なんと家の方向が同じだったのだ。
少し期待に胸を膨らませ歩いていた。
俺の家の前に着くと、家から知ってる奴が出てきた。
呑気な声に似合わず、体格のいい男が一人俺に向かって手を振っている。
相変わらずチャラチャラした奴だ。
大和は、俺の父さんが開いてる道場に通っている男。
父さんは、柔道の上級者で、家の道場を使って道場を開いた。
俺は昔から、父さんに武道を習っている。
大和はなぜか、父さんにしか柔道を習いたくないようで、長野からわざわざ引っ越してきた。
正直、来なくてもよかったのに。
てか、来てほしくなかった。
俺の過去を知ってる奴だから。
大和を帰らせると、俺は大雅に向き直った。
そう言っても大雅は真剣に聞かず、『金持ち怖いわー』などと言っている。
正直、金持ちでもいいことなんかひとつもない。
確かに、物は揃ってるけど、人生楽しめるかって言われたら、楽しめない。
しんどいだけだ。
別れの挨拶を済ませて、家の玄関の前に立つ。
『父さんが、目の前にいませんように』
母さんと父さんが離婚してから毎日、願うようになった。
ドアを開けて目の前に父さんがいれば、それだけで憂鬱になる。
父さんに会いたくない。
母さんとだって、無理矢理引き剥がされたんだ。
ガラッとドアを開けると、目の前には父さん......ではなく、家政婦の有紀がいた。
ほら、やっぱり。
だから嫌なんだ。
父さんのストレス発散は、俺の柔道の練習に横やりを入れること。
それも普通の横やりじゃない。
ただの八つ当たりだ。
相変わらず、趣味が悪い。
実の子どもを虐めて楽しむ親はどうかと思う。
有紀って、いつの間に父さんの肩を持つようになったんだろう。
昔は、友達として接してくれて、俺の味方だったのに。
俺は、有紀の言葉を無視して、台所へ向かった。
俺専用のマグカップに紅茶を入れて、2階の自分の部屋に入る。
シンプルな部屋に置かれた、一人用のベッドに寝転んで天井を見上げた。
うっかり制服で寝てしまう前にと、服だけ部屋着に着替えて布団に潜り込んだ。
俺はいつの間にか眠りについていた。
『お前、今日から男になれ』
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!