サンズにはたくさんの友達がいる
その多くはグリルビーズの飲み友が占めてるんだけど、その中には女の子のモンスターもいる訳で…
最初は気にならなかったんだけど、サンズが好きだって気がついてから周りの女の子達が気になって仕方ない
そもそもサンズはどういう女の子がタイプなんだろう
私みたいな幼児体型はお呼びじゃないとか平気で言われそうだなぁ…
想像して軽くへこむあなた
それでも彼の好みになりたくて、今日もグリルビーズに足繁く通う
ドアを開けると顔馴染みのモンスターばかり
いつも彼が座るカウンター席を見ると、誰も座っておらずまだ来てない様子だった
仕方なく皆んなに軽く挨拶を済ませて、私もいつもサンズが座る隣の席へ座る
肩をすくめるグリルビーに、そっかと返して飲み物を注文する
待ってる間に事前に図書館で借りてきた本を読み出す
タイトルは"君のガソリンに火をつけて"…メタトンの著書らしい
パラパラと読んでいると、隣にドカッと誰かが座った
目の前に綺麗なプロポーションの獣人型のモンスターが座って、驚愕の一言を告げた
え?寝てる?
何でこの人が知ってるの?
頭の中で疑問とモヤモヤが入り乱れる
女の人はニコニコと答える
私は驚きと鈍器を殴りつけられたような感覚に陥って、彼女に何も返せなかった
その様子を見て彼女は胸をきゅきゅっと上に上げながら、まだ何か1人で話し続けていた
この人がサンズの…
あなたは必死で涙を堪えた
ここから逃げたい
もうそれだけしか考えられずカウンターにお勘定を置いて彼女に軽くお辞儀をしてそそくさとその場を後にした
外に出て堪えていた涙が溢れ出し、一人で泣き言を吐き出していた
家まで早足で帰って布団に潜り込んだけど、その日は一睡もできなかった…
次の日
ママが私の部屋へ来ると、まず私の見た目に驚いていた
それもそうだろう
昨日は立て続けに泣いて泣いて…だったので、思い切り目が腫れてしまっていた
驚きはしたもののママはすぐさまキッチンから小さい氷嚢とタオルを持ってきて、「少し当てておきなさい」とそのまま部屋を去っていった
ママは気遣いもできる本当に素敵なレディーだ…
私もママみたいだったら、サンズは好きになってくれてたかなぁ
また同じような事を考えて、視界が歪んでいく
それを誤魔化すかのように目に冷えたタオルを当てて、ベッドでじっとしていた
ーーーピンポーン…
家のチャイムが鳴った
きっとママへのお客様だ、お願いそうであって
こんな姿を見られたくない思いから、そう願ってみたけど、ドアをノックされてママから「あなたにお客さんだけど、どうする?」と声をかけられた
うーーーーーん…
スノウタウンからここまでは正直距離があって遠い、そんな中わざわざ来てくれた友達を追い返してしまうのも申し訳ないか…
現状の恥ずかしさと追い返す申し訳なさを天秤にかけて「着替えるからリビングで待っててもらって」とママに告げた
仕方なく顔を洗って適当な服に着替えた
リビングへ迎えに行くと、そこには今絶対に会いたくないモンスターが座っていた
震える声とまた滲む視界を抑えながら、簡潔に答えて部屋に引き返した
最悪…!こんな姿見られちゃった
あの綺麗なモンスターと比較されたくない!
布団をかぶって鬱々としていたらメールの着信音が鳴った
もう無視しようと思っていたけど、"SANS"と表示されていて体が勝手にメッセージを開いていた
彼からの労いのメッセージに喜んでしまう自分がほとほと嫌になる
もう彼はあの人のなのに…
優しくしないでほしい
ちゃんと大人の対応、できたかな…
彼女は毎日こんなに優しい彼に気遣ってもらったり、グリルビーズで笑って過ごしているんだろうか
そう思うとまた胸が苦しくなる
何だかどっと疲れて昨日寝れていない事もあり、そのまま意識が薄れていった
目が覚めるともう夜だった
今何時なんだろう…
まだ起きてない頭をゆっくり動かしながら時計を見ると、10に針がきていた
10時かぁ…
むくりと起き上がって、電気をつけるとテーブルの上にママからのメモが貼ってあった
"我が子へ
冷蔵庫にサンドイッチとフルーツを置いているから、もしお腹が空いたら食べてね"
もうママと結婚しようかな…
深いため息をついて、キッチンへ向かおうとすると窓を叩く音が聞こえた
カーテンを開けてみると、外にはサンズが立っていた
嬉しい気持ちもあったはずなのに、口からはつらつらと可愛くない言葉ばかりが出てくる
お願い、酷いこと言っちゃう前に帰ってサンズ
貴方まで傷つけたくない…
心の中でそう願っても、彼は意に介さない
ゆっくりこちらに向かって口を開いた
サンズはサンズで何故だか苦しそうな顔をしていて、それに無性に腹が立って言い返してしまう
窓の方から入ってくる冷気のおかげで、だいぶ頭が覚めてきた
けど、彼が何を言っているのかが分からなかった
理解しようにもできない事態に、サンズの前で泣き崩れてしまうあなた
サンズはそんな私をふわりと抱きしめて、背中をさすってくれた
初めて感じる彼の腕の固さと、優しい柔軟剤の香りに訳もなく癒されてしまった
私が欲しい言葉を次々とくれるサンズに、コクコクと必死に頷いて彼を抱きしめる
彼は少し照れながら私の頭を落ち着くまで撫でてくれていた
あの後のお話(おまけ)
それを聞く前にサンズは居なくなっていた
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。