第14話

#14
194
2019/10/11 11:57
次の日、私はまたあの広い丘に行った。
木乃葉
昨日も今日も綺麗だなぁ。
そんなことを口にしながら、丘の遠くを眺める。

少し冷たい風が頬をくすぐるこの感触は、少しだけ長月ふるさとを思い出させる。
長月の風も、こんなふうに心地よかった。
月人
木乃葉‥‥ここにいたんだ。
木乃葉
あ、月人。
月人の長くて綺麗な黒髪が、風になびいている。
今日は髪を結っていないらしい。
木乃葉
ごめん、勝手に‥‥‥
すると、月人はふっと笑った。
月人
良いよそんな。逆に嬉しいよ、気に入ってもらえたようで。
月人が嬉しそうに笑うものだから、心臓がどきっとした。
男の子って、こんな可愛く笑うっけ?
月人
あ‥‥‥あと、髪結ってくれない?なんか寝違えて肩が痛いから腕が後ろに回らない。
木乃葉
何それ、どこのおやじだよ月人は。
私はくすくすと笑ってから、月人を丘の上に座らせた。
木乃葉
綺麗だなぁ‥‥良いよねこんな綺麗な黒髪。私なんて癖っ毛の栗色だよ?栗色はまだしも癖っ毛って‥‥‥
月人の髪を結いながら、私は愚痴を言い出す。
モテない女の基本いちだよ、と華乃葉に言われた覚えがあるけど‥‥‥まぁいっか。
月人
んー‥‥‥そんな悩む?
後ろで髪を結っているので、月人の顔は見えない。
木乃葉
悩むよー。だって髪は女の命!髪が駄目だったら全部駄目だよー‥‥‥
そんな事を言いながら、髪を紐で結んだ。
木乃葉
はい、終わりっ!どうだ月人!
すると月人は勢い良くこちらを振り向いて、私の髪を触った。
月人
ほんとだ、癖っ毛。
‥‥‥いや、うん。そうなんだけどね、月人。
近いんだよ。ちょっと心臓持たないからやめて頂きたい。
月人
ん?どうしたん‥‥‥‥
木乃葉
あーー!!!!
月人
!?!!?!?
突然大きな声を出して立ち上がった私に、月人は目を丸くする。
月人
どうしたんだ‥‥‥木乃葉。
木乃葉
近いですねー!はい!明らかに殺しにかかってるよねー!
妙に私のテンションが高いことに、月人は眉間にしわを寄せた。
木乃葉
あー‥‥‥はい。ごめんなさい。
月人はまだ不思議そうな顔をしていたけれど、これ以上眉間にしわを寄せることはなかった。

‥‥‥分かれ鈍感。天然たらし。
木乃葉
はぁ‥‥‥
私が大きく溜息を吐くと、月人がいきなり私の前髪を掻き上げてきた。
木乃葉
!?ちょ、いくら癖っ毛だからって前髪はそんな‥‥‥‥
月人
水引みずひきの紋様‥‥‥
水引。それは秋の花で、よく九月長月辺りで花を咲かせる。

何故、月人が私の額を見て「水引の紋様」と言ったのか。
それは、私の額の左上に水引の紋様が黒く浮き出ているからだ。
木乃葉
あーこれね。
木乃葉
お母さんが死んじゃってから、なんか浮き出たみたいで‥‥‥洗っても消えないし、この歳になってもずっとあるし、もういっかってなったんだけど‥‥‥
木乃葉
前髪で隠れてたのに、よく気付いたね。月人。
私が苦笑いを浮かべると、月人は笑って『風が吹いてるから。』と言った。
木乃葉
‥‥‥
木乃葉
‥‥‥いつまで前髪掻き上げてるの?やめて心臓持たない。
月人
あぁ‥‥ごめん。
月人はそう言って、私の前髪についた癖を直してくれた。

‥‥‥うん。頑張れ、私の心臓。



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