あれから数ヶ月後、
すっかり準備で遅くなってしまった私は、
出版社の廊下を走っていた。
薄暗い休憩室で1人、
机に突っ伏している青葉を見つけた。
青葉は顔を上げてチラリと私を見た。
気怠げでどこか儚い低い声。
私は青葉とは少し離れたとこにある
ベンチに腰をかけるとリュクを下ろした。
青葉の方を見るのが、なんだか怖かった。
静まり返ったオフィスには、
ただ自販機の音だけが響いている。
そこにいた青葉がいなくなったかと
思うほど、静かだった。
青葉の方を、わたしは振り返って見た。
突っ伏したままの青葉の声が掠れる。
その声はあまりにも弱々しくて聞こえなかった。
青葉は上体を起こした。
その表情は、
伸びた髪が顔に掛かって見えなかった。
静かな空間に響いたその声に、
私は、涙が溢れそうになった。
変わってしまったと思った。
でも、そうじゃなかった──。
青葉は、今も、昔も青葉なんだ。
私が言いたかった言葉を
青葉は遮った。
考えたこともなかった。
青葉の気持ちなんて──。
私には……
青葉の言う「ガキ」がお似合いだ。
姉ちゃんなら──今なんて言う?
──青葉は自由でいいんだよ
その雨は、突然降り出した。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。