俺がそう声をかけると、みんなが一斉に俺の方を向いて驚いた顔をした。
もしかしたら、記憶が無いかもしれないのに……。
それでも、俺は信じていた。
みんななら、絶対に俺のことを、俺たちのことを覚えているはずだって。
動揺から声の出なかった8人のうち、同タイミングで口を開いたのはこのふたりだ。
続けて声をかけてきたのはライとカゲツ。
ライに至っては満面の笑みで俺の名を呼び、カゲツは少し安心したのか、顔がいつもより穏やかになっている気がする。
マナはいつものオカン。
……変わってないな、あの頃から。
リトもやっぱりオカンみたいな感じだな。
過保護だし、今にも俺のことを抱きしめたそうな顔をしてる。
そう言って俺はふわっと頬を緩めて優しげに"笑った"。
"笑えた"んだ……?
俺たちの絆は。
そう言ってニコッと笑いかけると、悪魔は深く頷いて、俺たち9人の顔を1人1人見る。
そう言い、悪魔は指をパチンっと鳴らす。
家の裏側、前世で鬼門があった場所まで俺たちは移動する。
その間一言も発せられず、でも気持ちの良い沈黙が辺りを包んでいた。
その沈黙を、破ったのはウィットネスだった。
これまでになく、優しい瞳で俺を見つめるウィットネスがどうして謝るのか。
その理由がわからずぽかんとしてしまう。
前世の記憶を思い出す前、あまり親に愛されていなかったんだろうな、というのは小さいながらに理解していた。
家ではいつも冷たさを感じていて、あまり居心地がいいものではなかった。
だから、余計に前世のことを思い出した時、その空間に温かさを感じた。
…それから、取り戻してあげたいとも。
それじゃあ、……さようなら。
安らかな笑みを浮かべて、送り出す。
トン、とペンが置かれた音が聞こえる。
それから、パタンと本を閉じる音も。
新しい本が手に取られ、ふわりとゆっくり開かれる音もする。
君たちが覗いた本の1冊は、ここでおしまい。
ここからは、新しい「俺たち」を見届けてやってよ
……ん?今覗いていた本のタイトル?
それは……
#.笑わないヒーローくん
2025/08/03 〜 2026/04/02 Fin












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。