第113話

番外編   訃報
390
2026/07/28 08:42 更新
諸泉 尊奈門
…え?
高坂 陣内左衛門
…何度も言わせるな
高坂 陣内左衛門
あなた様が、亡くなられた…
高坂 陣内左衛門
私のせいだ……私の…
諸泉 尊奈門
……



  一瞬理解ができなかった



  あなた様が死んだ?

  そんなことあるはずがない



  あの方は何回も雑渡小頭と手合わせをしていたし、

  一年に渡って勝ち続けていた



  あんな…


花守 あなた
『尊奈門ちゃん』



  綺麗で、したたかで、



  頭を撫でてくれたあの人がもう居ないなんて、

  信じられなかったし、信じたくなかった


諸泉 尊奈門
嘘だ!
高坂 陣内左衛門
っおい! 尊奈門!



  山本さんや押都さんに

  何度も「走るな」と言われた廊下を走った




  まだ朝は早い

  でも、この時間ならあなた様は起きている



  そう思って急いであなた様の部屋の襖を開けると、

  あなた様を抱きしめている雑渡様がいた


諸泉 尊奈門
…ぁ……



  本能的に理解した


雑渡 昆奈門
…あぁ、尊奈門か



  雑渡小頭が今出している殺気と

  はだけた着物から見える傷だらけの腕と足

  そして肉が腐り始めた悪臭



  それだけの要素があれば、

  あなた様が死んでいることが理解できてしまった


雑渡 昆奈門
悪いんだが、少し外せ
雑渡 昆奈門
今の私は正気じゃない
諸泉 尊奈門
…はい



  襖を閉めた瞬間、右の肩に手を置かれた


諸泉 尊奈門
っ!?



  見上げるとそこには、押都小頭がいた


  反対方向に目を向けると、山本小頭もいる


諸泉 尊奈門
こが、しら…
押都 長烈
……
山本 陣内
……



  二人は何も言わなかった



  違う

  何も言えないのだと、すぐに理解できた


諸泉 尊奈門
…小頭



  私も何も言えなかった



  この城全体が悲しみに暮れていることが、

  手に取るように分かった


諸泉 尊奈門
…誰が、あなた様にあんな酷いことをしたのですか
押都 長烈
…もう地下牢に入れてある
押都 長烈
会いに行くか?



  流石はプロの忍び



  まだ満足に手裏剣も打てないような私とは大違い


山本 陣内
安心しろ
山本 陣内
お前も拷問には参加させてやる
諸泉 尊奈門
…え?




























































  山本小頭の言っていることが分かったのは、


  それから一ヶ月ほどが経った頃だった


諸泉 尊奈門
……
水蓮
…あら、尊奈門くんではありませんか



  話には聞いていた



  それでも、

  自分の目で確かめるまでは信じられなかった



  …信じたくなかったと、

  言い換えるのはこれで何度目だろうか


諸泉 尊奈門
…なぜ、あなた様を殺したのですか



  学んだはずだ


水蓮
理由、ですか?



  忍びは、人を信じてはいけない


水蓮
理由はありません



  誰かが嘘をついているかもしれないという仮定を


  常に頭に入れておかなければならないから


水蓮
理由もなく湧く殺意を、あなたも大きくなったらきっと理解できるようになりますよ
諸泉 尊奈門
…そうでしょうか



  愛した人が、大切な人が、



  明日も明後日も生きているかもしれないと

  錯覚を起こすから


諸泉 尊奈門
理由もなく湧く殺意は、今は理解できそうにありません
水蓮
そうですか、少し残念です
諸泉 尊奈門
ただ…



  猛烈に理解した




  この世で誰よりも苦しませて

  殺してやりたいという黒い感情


諸泉 尊奈門
殺意というものは理解できました










































































































諸泉 尊奈門
( よくも… )


































































































































































































   アノ慈愛二満チタ美シイ人ヲ殺シテクレタナ



































































































諸泉 尊奈門
……
水蓮
それはきっと、わたくしに対してのものでしょうね
諸泉 尊奈門
…ご理解頂けたようでなによりです



  水蓮の両手の指に、爪は一枚もなかった




  少し残念に思った

  私もやりたかったのに、と


諸泉 尊奈門
あぁでも、少し安心しました
水蓮
あら、何がですか?



 「殺さなければ何をしてもいい」と言われている



  だから、ここには山本小頭も押都小頭もいない


諸泉 尊奈門
足の爪は残っている



  牢の外に置いてある器具を握って、

  木と木の隙間から力いっぱい水蓮の足を掴んだ


水蓮
…ひっ!



  この女にも恐怖というものがあるのかと、

  少しだけ理解に苦しんだ


諸泉 尊奈門
あなた様は、あなたのそれよりもずっと強い恐怖を感じたはずです
諸泉 尊奈門
あぁ、敬語をつける必要もないか



  適当に選んだ足の爪を摘んで、

  力任せに引っ張りあげた


水蓮
っああぁぁあぁあああぁあぁあぁああ!!
諸泉 尊奈門
うーん、難しいなぁ…
諸泉 尊奈門
山本小頭達は、どうやってこんなに綺麗に爪を剥せたんだろう…



  まぁそれは後々学んでいけばいい



  そう思って、足を抱えて震えている水蓮を

  一瞥もせずに地下牢を後にした























































高坂 陣内左衛門
いいか、一番の強敵は五条家当主だ
高坂 陣内左衛門
誰よりも苦しませて殺すどころか、手順を踏まなければ顔を拝むことすら難しい
諸泉 尊奈門
どうすればいいんですか?



  手裏剣を打つ練習をしながら、


  高坂さんは教えてくれた


高坂 陣内左衛門
そのあたりは、小頭達が何とかしてくれるだろう
高坂 陣内左衛門
私たちには理解できない書類を殿に提出しなければならないらしい
諸泉 尊奈門
へぇ…
高坂 陣内左衛門
…まぁ、事の整理がついたら
高坂 陣内左衛門
いずれ私たちも駆り出されるさ



  的の真ん中に手裏剣を打ってそう言う高坂さんは


  私以上の覚悟を決めた顔をしていた


高坂 陣内左衛門
尊奈門、その憎悪を忘れるなよ
諸泉 尊奈門
え?
高坂 陣内左衛門
絶対に、あなた様の仇を討つんだ
諸泉 尊奈門
…はい!









































































































  殿を納得させるのに、かなりの時間がかかった




  雑渡小頭も組頭になって、私も元服した


雑渡 昆奈門
五条家当主とは戦うな
雑渡 昆奈門
その他は殺して構わない
諸泉 尊奈門
はっ!
押都 長烈
はっ!
山本 陣内
はっ!
高坂 陣内左衛門
はっ!



  あなた様はきっと、こんなことを望んでいない




  そんなこととっくに理解している

  でも、こうでもしないと正気を保てなかった



  組頭だってそうだと思う

  世界でいちばん美しいあの方が殺されたのだ



  憎しみを糧にしなければ、動けなかった

プリ小説オーディオドラマ