第112話

番外編   水蓮が蘇枋を殺すまで
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2026/07/22 07:00 更新
  わたしは、昔から物欲がなくて


水蓮
ねーさま! そのたくあん、ください!
蘇枋
えぇ、いいわよ



  沢庵なんて別に好きでもないから、

 「くれ」と言われていたからやっていた



  別に、沢庵程度で減る腹でもないのだし


水蓮
わぁーい!!
蘇枋
ふふ



  よくわたしの真似をする、可愛いわたしの妹



  その妹が、その最愛の妹が、

  中に “ 魔 ” を潜めていることを知るのは



  全てが遅くなってからだった














































水蓮
ねえさま…いっしょにねてください…
水蓮
いるんです…
蘇枋
えぇ…?



  わたしと水蓮は、

  “ 人ならざるもの ” が見えていた



  父も母も、誰も信じてはくれなかった

  子どもの戯言だと片付けられていた


蘇枋
ほら、いらっしゃい
蘇枋
二人でいれば怖くないわ
水蓮
…はい!



  布団の中に入ってきた妹を見て、

  わたしは胸に愛しさが跳ね上がるばかりだった


水蓮
ねえさま、そこにいてくださいね
蘇枋
えぇ、ここにいるわ
蘇枋
あなたから、絶対に離れない
水蓮
えぇ! やくそくですよ!



























































































    水蓮が歪み始めたのは、多分あの日から




























































































水蓮
姉様…! 姉様ぁ…!!
蘇枋
水蓮、わたしから離れないで…!



  今までわたしたちを見ていただけの

  “ 人ならざるもの ” が、爪を立てて襲ってきた



  死を覚悟した

  “ 死 ” とはこういうものなのかと、理解した


呪霊
サミシィヨォオォォォ…



  何か言っていたような気もする

  けれど、鮮明には思い出せない



  水蓮を抱きしめて、

  何とかこの子だけでも守ろうとした


  でも、いくら待っても

  想定していた衝撃は来なかった


??
こんな小娘の何がいい
蘇枋
!?



  雪のように白い髪の毛が美しかった



  たくましくて太い腕が見えただけで、

  涙が零れてしまうほどに安心できた


水蓮
…すごい



  水蓮の言う通り、本当に凄かった

 「凄い」としか言えなかった



  瞬きする間に “ 人ならざるもの ” は消え去っていた


??
ふん



  鼻で笑うように塵となって消える “ それ ” を、

  白髪の男は冷たく美しい目で見下ろしていた


水蓮
すごいです! わたくしにも、教えてくださいませ!
??
は?
蘇枋
水蓮!?














































  その日から水蓮は、

  五条勝右衛門と名乗る男の元へ通いつめていた


五条 勝右衛門
お主らには呪術師として戦えるほどの才はない
水蓮
……
蘇枋
水蓮…



  水蓮は本当に悲しそうだった



  肩に手を置いて慰めようと試みても、

  曇った表情は変わらない


五条 勝右衛門
だがのぉ蘇枋、うぬの呪力量はなかなかのものだ
蘇枋
わたし、ですか?
五条 勝右衛門
鍛えれば、簡単な結界術や降霊術くらいなら使えるようになる
蘇枋
え…
水蓮
……



  決して見逃さなかった



  わたしの肩くらいまでしかない身長で、

  わたしを睨め付けるこの子の目を



  “ 嫉妬 ” に満ちた、水蓮の目を


















































蘇枋
水蓮、その前髪は…
水蓮
似合っていますか? 姉様



  ある日突然、水蓮が前髪をわたしと同じにしてきた



  昨日までは後ろの髪の毛と一緒に伸ばして、

  後ろでひとつに結いていたのに


水蓮
街で褒められていたではありませんか、姉様
蘇枋
え…?



  確かに昨日、わたしは街に行った

  しかし、一人でだ



  一人で夜ご飯の食材を買いに行った


蘇枋
…とても似合っているわ



  不思議に思いつつも、

  前髪を変えたなんて珍しいとしか思わなかった



  ……否、考えることを拒んでいたのだ
















































水蓮
姉様、最近どうされたのですか?
水蓮
なんだか浮ついておられます
蘇枋
ふふっ、そう見える?
蘇枋
実はね…



  愚かにもわたしは、

  莫迦ばかみたいに正直に話してしまった



  街にかっこいい男の人がいること

  その人とお話をして、仲が良くなったこと


  そして、その男の人に櫛を貰ったこと


水蓮
へぇ…
蘇枋
今度、お礼を言いに行くの
水蓮
いいですね、応援していますよ









































































































































  ひと月もすれば、

  己がいかに愚かだったかを思い知ることができた






























































































蘇枋
水蓮!!
蘇枋
どうして…どうしてあなたが、あの人と歩いていたの!
水蓮
あぁ…見られていたのですね



  あの人というのは、

  少し前に、わたしへ櫛を渡してくれた男のことだ


水蓮
姉様、約束が違うではありませんか
蘇枋
約束…?
水蓮
わたくしから絶対に離れないと、言ってくれたではありませんか
蘇枋
は…? 何を言って…



  一歩、さらに一歩と後ずさっても、

  水蓮から距離を離せなかった


水蓮
約束縛り
水蓮
したではありませんか
蘇枋
ひっ…!



  理解せざるを得なかった



  わたしは水蓮から離れられないし、

  あの可愛くて仕方がなかった、
  愛しい妹はもうどこにもいないのだと
















































蘇枋
…お見合い?
水蓮
えぇ、そうです!
水蓮
あのタソガレドキ城の小頭の、雑渡昆奈門とお見合いができるのです!
水蓮
あなたのその呪力量と、神童と呼ばれた雑渡昆奈門の才があれば!
水蓮
もしかしたら、五条勝右衛門を超える呪術使いが生まれるやもしれません!!
蘇枋
……



  断れなかった

  言葉を発することが怖かった


























































































蘇枋
…お初にお目にかかります
蘇枋
蘇枋と申します
雑渡 昆奈門
…あぁ、初めまして
雑渡 昆奈門
雑渡昆奈門だよ



  会話はなかった



  なにか聞かれれば答えるつもりだったが、

  好都合だった




  その後に水蓮に何か言われたけれど、


  ただでさえ重い着物を着ていたから

  疲れていてよく思い出せない































































































蘇枋
は…?
五条 勝右衛門
何度も言わせるな、来い
五条 勝右衛門
此奴こやつの代わりに牢に入れ
水蓮
お願いします、姉様
水蓮
ようやっと、無念を晴らせるのです
蘇枋
……



  考えるのは嫌いだった

  ぼうっとしていた方が楽だったから



  沈黙を肯定とみなしたのか、

  五条勝右衛門は何も言わずに牢の中へ飛んだ



  もう、全てがどうでもよかった





























































































モブ
雑渡小頭の婚約者様が殺された…
モブ
あなた様が…!?
モブ
水蓮がやったというのは本当なのか!!
蘇枋
……



  もう何日経ったのか、

  数え切れないくらいの日数が経ったのはわかる



  むしろそれしか分からない


モブ
おい! お前、何者だ!!



  髪の毛を掴まれ、

  下を向いていた顔を無理やり上げさせられた


モブ
水蓮と、顔が同じ…?
蘇枋
……



  話の流れから大体察した


花守 あなた
『ダメよ、陣内左衛門ちゃん。落ち着いて』



  あの女だ


高坂 陣内左衛門
『あなた様を離せ、下衆』



  やはり思い返してみても、

  あの人が言っていた名前と一致している



  ……ただの女中ではなかったらしい


蘇枋
…雑渡昆奈門を
モブ
は?
蘇枋
呼んできてはいただけませんか
モブ
貴様…やはり水蓮の仲間だな!!
蘇枋
まさか…
蘇枋
あんな心に “ 魔 ” を住まわせた者の仲間になど、死んでもなりたくはありません…
蘇枋
雑渡昆奈門を呼んできてはいただけませんか
蘇枋
「名は蘇枋」と言ってくださればすぐに分かるかと
モブ
……



  本当に呼んできてくれた時は、正直驚いた



  と言っても、

  あの包帯を全身に巻いた化け物が来たのは

  わたしが「呼べ」と言った半刻後だったが


雑渡 昆奈門
…また君に会えるとは思わなかったよ
蘇枋
…えぇ、わたしもです
雑渡 昆奈門
で、私を呼んで何をしたいんだ



  またもや髪の毛を掴まれた

  ここにいる者は髪を掴むのが好きらしい


雑渡 昆奈門
あなたを殺した水蓮の姉のお前が、私になんの用だ
雑渡 昆奈門
今すぐここでお前を、ぐちゃぐちゃに切り刻んでやりたいのを必死で堪えている
雑渡 昆奈門
要件は手短に言え
蘇枋
…ふふ



  嗚呼、笑えたのは幾年ぶりだろうか


蘇枋
妹を……水蓮を、殺したいとお考えでしょうか
雑渡 昆奈門
何を当たり前なことを



  わたしの頭皮から髪の毛が抜けてしまいそうだ


  一体どんな力で髪の毛を掴んでいるのやら


蘇枋
でしたら…
蘇枋
この世で誰よりも苦しめて殺してくださいませ
雑渡 昆奈門
は…?



  きっと「妹を殺すな」とでも

  言われると思ったのだろう



  その呆けた顔は少し面白かった


蘇枋
( 水蓮… )



























































































 「あの日」にあなたが歪み始めたと思ったけれど、

  それは違うわよね



















































































































































































  どれだけ沢庵をあげても、

  どれだけあなたの傍にいても、























































































































































































  感謝や謝罪の言葉は一つもなかった

























































































蘇枋
水蓮…

























































































  あなたはいつだって、わたしを道具として見てた










































































































































































































  あなたはいつだって、

  わたしを姉として慕ってくれることはなかったわね














































































































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