わたしは、昔から物欲がなくて
沢庵なんて別に好きでもないから、
「くれ」と言われていたからやっていた
別に、沢庵程度で減る腹でもないのだし
よくわたしの真似をする、可愛いわたしの妹
その妹が、その最愛の妹が、
中に “ 魔 ” を潜めていることを知るのは
全てが遅くなってからだった
わたしと水蓮は、
“ 人ならざるもの ” が見えていた
父も母も、誰も信じてはくれなかった
子どもの戯言だと片付けられていた
布団の中に入ってきた妹を見て、
わたしは胸に愛しさが跳ね上がるばかりだった
水蓮が歪み始めたのは、多分あの日から
今までわたしたちを見ていただけの
“ 人ならざるもの ” が、爪を立てて襲ってきた
死を覚悟した
“ 死 ” とはこういうものなのかと、理解した
何か言っていたような気もする
けれど、鮮明には思い出せない
水蓮を抱きしめて、
何とかこの子だけでも守ろうとした
でも、いくら待っても
想定していた衝撃は来なかった
雪のように白い髪の毛が美しかった
たくましくて太い腕が見えただけで、
涙が零れてしまうほどに安心できた
水蓮の言う通り、本当に凄かった
「凄い」としか言えなかった
瞬きする間に “ 人ならざるもの ” は消え去っていた
鼻で笑うように塵となって消える “ それ ” を、
白髪の男は冷たく美しい目で見下ろしていた
その日から水蓮は、
五条勝右衛門と名乗る男の元へ通いつめていた
水蓮は本当に悲しそうだった
肩に手を置いて慰めようと試みても、
曇った表情は変わらない
決して見逃さなかった
わたしの肩くらいまでしかない身長で、
わたしを睨め付けるこの子の目を
“ 嫉妬 ” に満ちた、水蓮の目を
ある日突然、水蓮が前髪をわたしと同じにしてきた
昨日までは後ろの髪の毛と一緒に伸ばして、
後ろでひとつに結いていたのに
確かに昨日、わたしは街に行った
しかし、一人でだ
一人で夜ご飯の食材を買いに行った
不思議に思いつつも、
前髪を変えたなんて珍しいとしか思わなかった
……否、考えることを拒んでいたのだ
愚かにもわたしは、
莫迦みたいに正直に話してしまった
街にかっこいい男の人がいること
その人とお話をして、仲が良くなったこと
そして、その男の人に櫛を貰ったこと
ひと月もすれば、
己がいかに愚かだったかを思い知ることができた
あの人というのは、
少し前に、わたしへ櫛を渡してくれた男のことだ
一歩、さらに一歩と後ずさっても、
水蓮から距離を離せなかった
理解せざるを得なかった
わたしは水蓮から離れられないし、
あの可愛くて仕方がなかった、
愛しい妹はもうどこにもいないのだと
断れなかった
言葉を発することが怖かった
会話はなかった
なにか聞かれれば答えるつもりだったが、
好都合だった
その後に水蓮に何か言われたけれど、
ただでさえ重い着物を着ていたから
疲れていてよく思い出せない
考えるのは嫌いだった
ぼうっとしていた方が楽だったから
沈黙を肯定とみなしたのか、
五条勝右衛門は何も言わずに牢の中へ飛んだ
もう、全てがどうでもよかった
もう何日経ったのか、
数え切れないくらいの日数が経ったのはわかる
むしろそれしか分からない
髪の毛を掴まれ、
下を向いていた顔を無理やり上げさせられた
話の流れから大体察した
あの女だ
やはり思い返してみても、
あの人が言っていた名前と一致している
……ただの女中ではなかったらしい
本当に呼んできてくれた時は、正直驚いた
と言っても、
あの包帯を全身に巻いた化け物が来たのは
わたしが「呼べ」と言った半刻後だったが
またもや髪の毛を掴まれた
ここにいる者は髪を掴むのが好きらしい
嗚呼、笑えたのは幾年ぶりだろうか
わたしの頭皮から髪の毛が抜けてしまいそうだ
一体どんな力で髪の毛を掴んでいるのやら
きっと「妹を殺すな」とでも
言われると思ったのだろう
その呆けた顔は少し面白かった
「あの日」にあなたが歪み始めたと思ったけれど、
それは違うわよね

どれだけ沢庵をあげても、
どれだけあなたの傍にいても、

感謝や謝罪の言葉は一つもなかった
あなたはいつだって、わたしを道具として見てた

あなたはいつだって、
わたしを姉として慕ってくれることはなかったわね














編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。