「しっ、失礼しまーす……」
怯えながら目の前の扉を開ける。
行きたくないと思いつつ、シグマさんに着いてきてもらっているのでなんとか堪えてここまで来た。
私の部屋から、ドストエフスキーの部屋だと案内されて来たここまでに、いくつもの部屋があった。
どれだけ広いんだこの家は。
そんな得体の知れない空間も、怖さを助長するものの一つだった。
開けた扉の中へ向かうと、まず見えたのは大量の本とコンピューター。
そして電気と言えるものはコンピューターから出ている明かりしかなくて薄暗い。
明らかに異常で怖い。帰りたい。
「ああ、来ましたか」
暗くてよく見えていなかったけれど、どうやら本を読んでいたドストエフスキーが座っていた椅子から立ち上がり言う。
背が高い。
そして、あまり見えていなくても分かる顔の良さ。悔しい。
これだけ顔がいいのに何で悪巧みなんかするんだろう。
つくづく不思議に思う。
「あの、仕事がある、って聞いて……」
「言うほど仕事でもないですけどね。これです」
ドストエフスキーは近くの机から何を取り、顔の横にかざした。
キラリ、と光っているけれど、見えなくて何なのか分からない。
「なんですか、それ」
「GPS付きのピアスです。これから一生付けててください」
真顔で、さらりと言うドストエフスキー。
「ピッ、ピアス!?GPS!?……あの、私穴開けてないですけど」
何。GPS付きのピアスって。
まるでそれが一般社会において市民権を得ているかのように言わないで。
そもそも、ピアス自体開けるのが怖くて開けていないのに。
「ええ、知っていますよ。今から開けます」
「えっあの、ほんとに、勘弁してください……」
「駄目です」
知っていますよじゃない。なんでそれすら知っているの。
そして今から開けます、も聞き捨てならない。
今から?今すぐ?
昔からピアスには興味があった。
それでも、どうしても体に針を通すことが怖くてできないままでいた。
それだけずっと怖かったことを、今からやるなんて。
冗談じゃない。
助けを求めて、シグマさんの方を向く。
お願い、助けて。どうにかしてください。
「……すまない」
言葉に出せず、ただ表情だけで伝えるしかなかった私の願いは伝わったようだけど、それと叶えてくれるかは話が別で。
心底気まずそうに、申し訳なさそうに顔を逸らすシグマさん。
分かってはいたけれど。
一縷の望み、というものに賭けたかった。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。