今から約五年前。
私が高校一年生になって、数週間が経った頃。
進学校に入学できたはいいものの、授業の進みの早さや内容の難しさを目の当たりにした私は、早速壁にぶちあたっていた。
両親が勧めてくれたこともあって、いくつかの塾を体験した後、一番相性のよかった個別指導型のところに決めた。
田辺先生に紹介された少年が、想太だった。
ぶかぶかの学生服にはまだ中学生の気配が残っていて、初々しさと幼さを感じさせる。
他校の生徒ということで、想太とはその日が初対面だった。
同学年の生徒二人につき一人の講師がつく、という仕組みのため、簡易な仕切りを隔てて隣に想太がいる状況だ。
自分のペースで教えてもらっていても、想太の進み具合は気になってしまう。
ちらっと盗み見した想太のテキストは、私の予想を遙かに超えて先に進んでいた。
想太は解くスピードだけでなく、理解も早かった。
私は後から追いかけるのに精一杯で、でも想太には負けたくない一心で、授業がない日も毎日、塾の自習室で勉強していた。
ある日、他の授業を受けに来ていたという想太に見つかってしまった。
正直に事情を話すと、彼は「負けず嫌いなんだ?」と笑った。
それから想太は、授業がない日に私を見かけると、分からないところを教えてくれるようになった。
想太も進学校に通っているとはいえ、塾は必要ないのではないかと思えるほどに頭がいい。
その上、教え方も上手い。
一種の悔しさを覚えながらも、私は照れ隠しに彼の肩を殴った。
想太の飾らない優しさや笑顔は、とてつもなく魅力的に映る。
他の男の子にはないようなオーラに惹かれて、私は彼と過ごすほどに、どんどん気になっていった。
季節が過ぎて冬になり、私は「クリスマスイブ、一緒に出かけない?」と、思い切って想太を誘った。
目を丸くする想太に、私が顔を赤くしながら頷けば、彼は嬉しそうに笑った。
学校は冬休み中でも塾はもちろんあるので、ほぼ毎日のように想太とも顔を合わせるのだが、私は二人きりの時間を過ごしたかった。
断られることを覚悟していたのに、想太は意外にも喜んでくれたのだ。
【第7話につづく】
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。