ふわふわとした意識の中。
目の前には思い出が
ぷかぷかと浮かんでいる。
”あの頃”の思い出、
軽音部の皆に出会ってから。
その中で見覚えのないものが1つ。
手を伸ばして触れた瞬間、
ビリビリと電気が走ったように感じた。
痛みを感じたのは手ではなく頭だった。
私が寝ていたのはテント前のレジャーシート。
バスタオルがかけられていて、
こんな水着を着ている私への配慮ととる。
そうだ、私は天月君に助けられたんだ。
まただ。
また痛みが頭を襲った。
太陽のような笑顔。
前向きで明るくしてくれる言葉。
……。
彼は……。
心配そうに見つめる瞳。
微かな記憶の中の自分より
控えめな声色と笑顔で答える。
この懐かしさは。
ただの勘違いなんかじゃなかったんだ。
私は____________
"前にも"彼に助けられた。
脳内に薄く広がる記憶の中で
全く同じセリフ、同じ笑顔を浮かべた
よりあどけない天月君がいた。
それから数分後、飲み物を持った
皆が帰って来た。
天月君はアイコンタクトをして来た。
その気遣いにのり、私も誤魔化した。
それからもボートで起こった珍事件を
聞きながらお菓子を頬張った。
……彼は。
ほとんどピースが欠けた、
私の幼き記憶のパズル。
真ん中には表情の分からぬ私と誰か。
男の子なことは覚えていた。
名前も顔も、何も覚えてないけど。
そしてその男の子は信じられないほど
天月君によく似ていた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!