いつもなら
彼がご飯を持ってくるような時間な気がするが、
何故か今日は珍しく、そんな話題を振り出した。
彼は、そうそう、と万遍の笑みで頷く
なんでまた急に……、と問いかけたくなったが
彼の笑みの中に隠れている圧に押され
" 分かった、 " と、了承せざるを得ない状況になっていた
彼がポケットから取り出した銀色の鍵で
足錠と手錠を器用に外すと、
体の重みが何だか無くなったかのような
解放感に包まれた
彼が差し出してくれた手に掴まり
当たり前に使っていた足も、
今では慣れない足になっていて
頑張ってバランスを取りながら、
何とか立つことが出来た
明るい彼の言葉に、私は思わず戸惑ってしまう
まさかこんなにも早くに
この部屋から出られるとは思ってもいなかったのだから
あの部屋が嫌がられるの分かってたんだ……。
彼曰く、これからは 「 同棲 」 のような暮らしになるらしい
そう聞いた瞬間、私は少し自由になれた気がして
とても嬉しかった
彼が持ってきてくれたのは、
ハンバーグと盛合わせのサラダ、そして白米だった
食事は、リビングで毎日するらしい。
私にとってリビングは、何度か来たことがあるので
とても見慣れた雰囲気だった
私は手を丁寧に合わせ、
" いただきます " と、彼に聞こえるぐらいの声量で言った
久しぶりに自分の手で食べるご飯、
その味は美味しいはずなのに、何だか物足りなく感じた
足錠と手錠が外れ、身動きが取れるようになった私、
そして、あの部屋からも脱出出来た。
だったら__________
……逃げよう、ここから。
少し離れて、またいつもみたいに話せれば
彼だって分かってくれる。
こんなやり方ではなくても、
きっと彼のしたい事は出来ると思う。
N E X T .
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。