気づけば、フロアに残っている人はほとんどいなくなっていた。
画面に並ぶ数字とにらめっこをしながら、あと少し、と自分に言い聞かせるみたいに息をついたとき。
振り返れば、山中くんがいつの間にかすぐ後ろに立っていて、デスクの端に軽く手をつきながらこちらを覗き込んでいた。
軽くやり取りをしながら視線を戻すと、そのまま静かな時間が続いた。
戻る気配がないまま隣に立っているのが視界の端に入って、なんとなく気になってしまう。
軽い冗談にも聞こえないし、かといって重い意味があるわけでもなさそうで、その距離感が余計に引っかかる。
そのまま作業に戻ると、不思議とさっきよりも手が動いた。
隣に誰かがいるだけで、こんなに落ち着くものだったかとぼんやり考えながら、画面に視線を落とし続けた。
しばらくして一区切りつき、背もたれに体を預けて息を吐いたタイミングで、ほぼ同時に声がかかった。
荷物をまとめて立ち上がると、タイミングを合わせたみたいに缶コーヒーを差し出された。
軽く笑ったあと、少しだけ声のトーンが落ちた。
並んで歩きながら缶コーヒーを開けると、甘い香りがふわっと広がった。
自分では覚えていないようなことを、覚えられているのが少し不思議だった。
駅までの道を歩きながら、特別な話をしているわけでもないのに時間だけが妙に早く過ぎていく。
隣にいることが、もう当たり前みたい。
この距離に慣れるの、思ってたより早いかもしれないなあ、と。
ふと思った。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。