第2話

🤍 部下2
247
2026/04/29 15:30 更新
気づけば、フロアに残っている人はほとんどいなくなっていた。

画面に並ぶ数字とにらめっこをしながら、あと少し、と自分に言い聞かせるみたいに息をついたとき。
柔太朗
まだ終わりそうにないですか
振り返れば、山中くんがいつの間にかすぐ後ろに立っていて、デスクの端に軽く手をつきながらこちらを覗き込んでいた。
あなた
んー、今日中だからね
軽くやり取りをしながら視線を戻すと、そのまま静かな時間が続いた。
戻る気配がないまま隣に立っているのが視界の端に入って、なんとなく気になってしまう。
あなた
...帰らないの?
柔太朗
帰りますよ
あなた
じゃあなんでいるの
柔太朗
あなたの名字さんが終わったら帰ろうかなって
軽い冗談にも聞こえないし、かといって重い意味があるわけでもなさそうで、その距離感が余計に引っかかる。
あなた
別に待たなくてもいいのに
柔太朗
俺が待ちたいんで
そのまま作業に戻ると、不思議とさっきよりも手が動いた。
隣に誰かがいるだけで、こんなに落ち着くものだったかとぼんやり考えながら、画面に視線を落とし続けた。
しばらくして一区切りつき、背もたれに体を預けて息を吐いたタイミングで、ほぼ同時に声がかかった。
柔太朗
終わりました?
あなた
今ちょうど
柔太朗
じゃあ帰りましょ
荷物をまとめて立ち上がると、タイミングを合わせたみたいに缶コーヒーを差し出された。
柔太朗
はい
あなた
え、いつの間に
柔太朗
さっきちょうど席外した時に
あなた
....なんで
柔太朗
なんか疲れてそうだったんで
あなた
顔に出てる?
柔太朗
結構
あなた
やばいじゃん
柔太朗
やばいですね
軽く笑ったあと、少しだけ声のトーンが落ちた。
柔太朗
あんまり無理しすぎない方がいいですよ
あなた
....はい
並んで歩きながら缶コーヒーを開けると、甘い香りがふわっと広がった。
柔太朗
それ甘いやつです
あなた
え、そうなの?
柔太朗
あなたの名字さん苦いの苦手でしょ?
自分では覚えていないようなことを、覚えられているのが少し不思議だった。
あなた
よく覚えてるね....
駅までの道を歩きながら、特別な話をしているわけでもないのに時間だけが妙に早く過ぎていく。
隣にいることが、もう当たり前みたい。
柔太朗
あなたの名字さん
あなた
ん?
柔太朗
明日も残業ですか?
あなた
多分ね
柔太朗
じゃあ、また
あなた
....うん、また
この距離に慣れるの、思ってたより早いかもしれないなあ、と。

ふと思った。

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