私を気に入らない理由は簡単。
…実のところ、
私はこの5つの隊の何処にも属していない。
私専用に特別枠をわざわざ万次郎達が作ってくれて、
腹心や隊員の1人も居ないのに " 隊長 " の肩書きを私に与えてくれた。
その肩書きに沿った役割を、私はあまり皆の前で果たしていない。
つまり、東卍の他の仲間達には、
「何もしない奴が隊長の席に居座り続けている」
という認識になってしまう。
いつも私が役割を果たす時は運が悪いのか、皆が知らないところが多いのだ。
まぁ、仕方がないのだろうけど。
万次郎に聞こえないように大きく息を吐く。
テスト期間の2週間、ぶっ通しで張り詰めて集中していた分の反動か、
今は視界も朧気で、身体も少し重い。
(キヨマサとやった時も、微妙に蹴りの速度落ちてたし。訛ってるなぁ。)
私に不満がある奴らは
" 総長のお気に入り " なんて皮肉な言葉は勿論、
どうやら他にも " 誑かし野郎 " 、" 東卍のお飾り " なんてあだ名も私に付けているらしいし。
私が特別枠で総長の傍に居る事を気に入らない奴が大勢居るというのに、
そんな奴らが私を女だと知ったら、余計に目の敵にするだろう。
仕事しない癖に総長達のお気に入りってだけで優遇されている奴が 『実は女だった』と不満を持つ奴らが知れば、
自然とその矛先は万次郎に向く。
「女にうつつを抜かしてる」なんて言われるような事になったら大変だ。
(つか、そもそも私、万次郎の彼女でも何でもないし。)
『ブルルルル…』
赤信号を前にバイクを一時停止させた万次郎が、若干顔を後部座席の私に向けた。
『ギュゥッ、』
万次郎の優しさに、私の胸は嬉しいという気持ちで溢れ満たされていく。
私は万次郎の腰にまわした腕に力を込めた。
大事にされてるなぁ、と思う。
万次郎は私の性別なんて見向きもせず迎え入れ、仲間達同様に分け隔てなく接した。
万次郎は私を " 女 " だとか関係なく、
" 東卍の仲間 " として見てくれている。
私は正直、そんな万次郎に正面から真っ直ぐに向き合えるような気持ちは持っていない。
寧ろ、抑えてはいても、疚しい気持ちがあるのは事実だ。
だって、私は___
『お前は特別だ。』
『ずっと俺の傍にいろ。俺の目の届くところに、ずっと。』
_____その言葉を貰ったあの時から。
万次郎に恋をしている。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。