ある日ぽっちゃり猫を助けたら
よその世界の執事の主になった
これは 私と執事たちのお話
私の部屋で
器用に肉球で紅茶を注ぐムーが
いつもより声を潜めて首を傾げる。
昨日意図せず大人の扉を開けてしまった私は
ムーから受け取った淹れたての紅茶を飲んで
うん、と頷いた。
フルーレだってアンティークドールを隠してたからな。
きっとベリアンだって
ドールを隠したいはずだ、
うん、私気がきく。
ふぅ、と急に達観したような顔つきになったムーに
はぁ?と首を傾げる。
お前猫のくせに人間事情詳しいのか
パンダとかくまとか
あんな人みたいに大きい人形
一緒に寝たら窮屈そうというか・・・
むしろこっちが抱っこされそうだけど
ドールは綺麗だなとは思うが
人型過ぎてその辺の魂が入りやすいからな。
私とは相性が悪いのだ。
まぁベリアンのはひとまず内緒で、
あとで鍵は戻しておこうと
ムーの紅茶を飲みきったところで
コンコンとドアがノックされて顔を向けた。
ドアから顔を覗かせたルカスは
あの日ミヤジと仲直りできたのか
今までより穏やかな笑顔でにこりと笑った。
はいっと手を挙げたムーに
苦笑したルカスがいいですよ、と頷いて
それから空になった紅茶のカップをみて
おや、と目を瞬いた。
えへんと胸を張るムーに
ルカスがにこやかに頭を撫でる。
うん、ちゃんと紅茶だったぞ
毛も入ってなかったし。
ルカスに手を引かれて食堂に行けば
ベリアンとミヤジが待っていて
古参メンバーにおっとと顔に笑顔を貼り付けた。
・・・・・大事な話って言ってたな?
コソコソ話している私とムーをよそに
ベリアンがにこやかに紅茶を淹れる。
今飲んできてお腹たぷたぷなので
添えられていたクッキーを一つ貰えば
ルカスがさて、と口を開いた。
ならセーフだな!
あからさまにホッとして揺れてるムーの尻尾を
ベリアンたちから見えないように抑える。
犬ほどではないけれど
感情に左右される尻尾はかわいい。
隠し事には向かないけどな。
かたんとルカスが机に置いたのは古びた箱。
ムーと一緒に覗き込めば
ルカスが箱の中身をみてほしいと手に取った。
古い箱の中には
箱とちぐはぐなキラキラした漆黒の鍵。
鍵自体が宝石にみえるくらい
細部まで細かい紋章や模様がついている。
これお高いんでしょー?
と通販番組みたいなフレーズが頭を過ぎれば
私とムーの後ろから覗き込んだベリアンが
ハッと息を飲む気配がした。
やはり?と首を傾げるムーに
ルカスが鍵の紋章を指差せば
ミヤジがハッとしたように近くに寄る。
悪魔と契約した時の紋章だという模様に
ルカスがしっかり頷いた。
ルカスやミヤジの声も耳に入っていない様子で
ただ鍵を呆然と見ているベリアンに
ふむ、と一拍間をおいて
サッと箱ごとベリアンの視界から取り上げた。
なんとなく手に取ったけれど
見た目通りちょっと重たい箱と鍵に
ベリアンがもう一度視線を寄越す。
そうして、
ベリアンを見つめるルカスとミヤジに
ゆるりと頭を振った。
ルカスとミヤジが目を見開いて
ムーがうーんと首を傾げる。
おじいちゃんたちがずっとシリアスモードなのに
ムーのリアクションでいまいち締まらないな、と
なんとなーく鍵を指でクルクルまわせば
ベリアンから目をそらさずに
ミヤジにそっと手を止められた。
すまん、真面目すぎて退屈なんだ
ちゃんと話に参加してますアピールをすれば
珍しく動揺しているベリアンにがしっと腕を掴まれた。
別に記者じゃないんだから
英雄には隠し子がいた!?とか
そんなスクープ作らないぞ?
ベリアンがルカスに宥めれて、
(ついでに私はミヤジにこら!とガチめに叱られて)
ふぅ、といつもの冷静さを取り戻したベリアンが
改めて真剣な表情をした。
頷いたルカスとミヤジに
すちゃっと自作のメガホンを取り出す。
あ、と若干引き攣ったムーが
肉球の手で耳を塞ぐより素早く息を吸った。
私の声がデビルズパレスに響いてきっちり5分後。
朝食の時間以外で全員集まった食堂に
ミヤジにどうだと胸を張れば
苦笑いして頭をポフポフされた。
うん、これでさっきのチャラだな!
1階、2階組のひそひそに
きょろ、と食堂全体を見回す。
みんなの緊張をほぐす為に
出番かと息を吸い込めば
吐き出す前にミヤジの大きな手で口を塞がれた。
ちがうぞ
私が譲歩してあげてるんだ
大人しくミヤジの腕に捕獲されていれば
緊張した様子のベリアンがふぅ、と息を吐いた。
ベリアンが話したのは
さっき少し出ていたゴエティア様とのことだった。
ベリアンはゴエティア様の孤児院にいたこと。
ゴエティア様はひとりで天使と戦っていたこと。
そして、1番最初に悪魔と契約をしていたのは
ゴエティア様だったこと。
ベリアンは悪魔と契約した3人目だったこと。
ベリアンが悪魔執事になった前後の記憶は曖昧だが
ずっと2人目の悪魔執事がこの邸にいたこと。
まだ、鍵の本戻してない!!
ご案内します、と立ち上がったベリアンに
冷や汗ダラダラのまま
ムーと目を合わせた。
(あ、私次回お説教確定・・・)
(諦めないでくださいっ)
(あなた様、ムーくんさっきから何してるんだい)
((ぎくぅっ・・・!))
いいコンビな主様とムー。
ミヤジの中では主様は
バカな子ほどかわいい、の問題児です












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!