ホグワーツが用意したポートキーでイギリスに到着したのは、現地時間の朝だった。
今までなぜこれを使っていなかったかというと──そもそも存在を知らなかったからだ。外国人留学生用のポートキー制度は、魔法省が昔に整備したものの、異国の魔法学校に通う生徒などほとんどおらず、すっかりホコリをかぶって忘れ去られていた。伝えられなかったのも、仕方のないことだったのだろう。
「制度というのは忘れられるものじゃ」とは、ダンブルドア校長の談だ。
ぐにゃり、と世界がひっくり返ったかと思えば、胃の中が裏返されるような感覚に襲われた。足元ががたんと崩れ、視界の端が白く滲む。
次の瞬間には草の匂いと土のにおいが鼻をついた。転ばなかったのは奇跡だと思う。僕は自分の足元を見下ろして、ズボンの裾についた土をそっと払い落とした。
スーツケースを引き寄せて体勢を整えると、遠くに赤い屋根が見えた。煙突からは細い煙が上がっていて、どこか懐かしい香りが漂ってくる。
一昨年と全く変わらず、家は傾いていた。屋根は少し曲がっていて、窓の数は左右で合っていない。でも、なぜだろう。すぐに「ああ、あれがロンの家だ」とわかってしまう不思議さがあった。
門を抜けると、玄関の扉が勢いよく開いた。
ハーマイオニーだった。少し乱れた髪、頬をほんのり赤くして駆け寄ってくるその姿を見て、僕は自然に笑ってしまった。
ハーマイオニーは僕の手を取って、グイグイと家の中に引っ張っていく。
そのまま手を引かれて玄関へ入ると、途端にウィーズリー家のにぎやかな空気に包まれた。
朝のキッチンでは、ウィーズリーおばさんが鍋に魔法をかけながら、何種類もの料理を同時進行で作っている。トーストがひとりでに宙を舞って、皿に並んでいく。
声に促されて、テーブルにつく。ジニーが隣に座って、「あのチケット、ほんとすごいよ」と目を輝かせた。
僕がそう尋ねると、ジニーは真顔で答えた。
ハーマイオニーがあきれたように言うと、背後から軽快な声が飛んできた。
フレッドとジョージが揃って現れる。
にやりとしたその笑顔に、僕は苦笑した。
二人は楽しげに肩をすくめ合いながら、別室へと去っていった。
そのあとに遅れて、階段の上から寝ぼけたハリーが顔を出した。
ハリーはぼそぼそと笑って、階段を下りてくる。僕の正面の席に座って、眠たげにトーストをかじった。
ハーマイオニーが笑顔でそういうと、なんだか僕まで嬉しくなった。
ロンとの会話を楽しみにしておこう。
そういえば、とジニーが口を開く。
僕の、イギリスでの生活が帰ってきた。













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!