その一言でピタリと足を止める。そうして、使用人共の会話に耳を傾けた。
まさかあの兄者があの六男の血を飲んでいるとは思いもしなかった。
俺たち六人兄弟は上位吸血鬼一家。お父様と複数の女によって俺たち兄弟はこの世に生を受けた。
その中で異例な六男。人間と吸血鬼のハーフで、俺達が六男の血を飲める事には飲めるが、女じゃねぇし、俺は男の血なんて興味ねぇから別に絡む事も殆ど無かった。
興味が無かったとはいえ、あの兄者が飲んでいるくらいだ。
好奇心は湧いてしまう。あの六男の血はどれ程美味なのか、態々ハーフの血を飲むものか。
試しに一滴だけでも飲んでみてぇ、と思ってしまった。
が、直ぐに実行出来なかった。何故か、理由は兄者がずっと六男を独占しているからだ。
思えば最近城で見ることも無くなり、会うのは会議の時だけだと思っていたがまさか兄者が独占しているとは思いもしなかった。
それから数日が過ぎ、俺の好奇心は欲望へと変わる。幾ら何でも気になる事を直ぐ実行に移せなければ次第に思いは強くなっていく。
欲望が強い吸血鬼にとってそれは尚更だった。
女の血を飲んでも最近満足出来ねぇ。
あの六男がどれ程美味なのか、そう考えたら次第に普段の食事も喉を通さなくなっていた。
そんな日々が続いていたある日の深夜。廊下の奥の方に人影が見えた。
目を凝らして見れば真っ黒の服に黄色の瞳が異様に輝いて見えた。
人間の匂いと俺達の匂いが混じった香りが鼻を突く。やっと見つけた と呟いてズカズカと近づいて、胸ぐらをがっと勢いよく掴んだ。
そのまま六男の首をさらけ出し、がぶっと豪快に噛む。
途端、口に広がるこれまで飲んだことの無い程に美味な味。ハーフという事もあるからか、多少苦い様な感覚もあったがやはりこいつは人間の母親の血が濃い。
しかもお父様が子を産ませる程の女だ。相当女の方も美味だったのだろう。
一定の血を口に含み、ごくりと飲み込んだ後六男の首から口を離す。
口に多少なりとも着いた血も舌で舐めとって、六男を見た。
首にくっきりと付いた噛み跡から流れ出る赤い血。よく見れば、他にも噛み跡がある。
兄者の 俺の物だ という意思を感じる様な無数の噛み跡。
何を思ったのか、がっと勢いよく六男の顎を掴んだ時、俺の身体中からトランプが出てくる。
嗚呼 、 兄者の地雷を踏んじまった。分かりきっていた事だろうが…これ以上深入りすると、まずいって事は。
俺は両手を上げる。分かってる、兄者があいつに目を付けた限り、あいつを俺の物にする事は出来ねぇ事も、手を付けてはならない存在になっている事も。
力の差がある俺と兄者じゃ、戦ったとして負けるのは俺の方だ。
仕方なく、俺はその場を離れた。当たり前だ、あの場に残っていても何も出来やしねぇ。
まぁ、だが…六男の味は予想以上だった。
あの味は、忘れられねぇな。
𝑒𝑛𝑑 _ 。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。