あの日、──初めてそらのお見舞いに行った日。
病院で別れる時に、悠斗に言われた。
「本当の自分を見せる覚悟を、決めろ」
言う必要がないとか、それくらい分かってたのになぜか言っていた。
『なんでそんなこと言ったんだ』
そんなことを自問自答するだけ無駄なのに。
それ以上言葉をつむいだところで、何もいいことなんかあるわけないのに。
気づいたら、色々言葉を吐き出していて。
どっかで同じようなことあったなあ、なんて頭の片隅で考えながら、自分の口が止まるのを待っていた。
こんなこと言ったら絶対怒るだろうけど、ストレス発散、
みたいな......そんな状態だったと思う。
言い終わった後、悠斗はいつもより優しかった。
俺の病気を知ってるからだ。
きっとそう。
なんて思うのは、数日たった今でも変わらないが、やっぱり悠斗は......。
俺の病気は治ってきていると、確かに分かっている。
でも、悠斗の優しさに嘘が混じってるように感じるのは......。
──......結局俺は、あの日悠斗と話した後、しばらくお見舞いに行くことができていない。
悠斗の言う、「覚悟」が、まだ......。
......やっぱりまだ、素の自分をさらすのはこわい。
それに、悠斗と会うのも......こわかった。
そらの前で、そらの聞いているところで、話をされるかもしれないなんて、そんなことを考えてしまったから
悠斗は、そういうことをしないやつなのに。
『......言い訳だな』
ああ、久しぶりにでてきたのか。
......めんどうくさいやつ。
......まあ、分かってるけど。それくらい。
言い訳じゃなくて、全部、嘘だよ。
気づいてるクセに、気づいてないフリをしたかっただけだ。
本当は......。
もう、覚悟は......、できてる。
素の自分を、そらの前で出せるのかは、正直分からない。
どうも俺は、そらの前では自然とキャラを作ってしまうらしく......。
どうなるかは......運次第、なのかな。
深呼吸して、俺は病室のドアをノックする。
──そのドアの横には、「相川そら 様」という文字があった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。