第45話

忘れて 1
19
2019/09/07 12:40
あの日、──初めてそらのお見舞いに行った日。

病院で別れる時に、悠斗に言われた。





「本当の自分を見せる覚悟を、決めろ」




言う必要がないとか、それくらい分かってたのになぜか言っていた。
森崎 渉
なんでお前に言われなきゃ
いけないんだよ......!




『なんでそんなこと言ったんだ』



そんなことを自問自答するだけ無駄なのに。



それ以上言葉をつむいだところで、何もいいことなんかあるわけないのに。




気づいたら、色々言葉を吐き出していて。


どっかで同じようなことあったなあ、なんて頭の片隅で考えながら、自分の口が止まるのを待っていた。







こんなこと言ったら絶対怒るだろうけど、ストレス発散、
みたいな......そんな状態だったと思う。







言い終わった後、悠斗はいつもより優しかった。
坂倉 悠斗
そうか。
......まあ、とりあえずゆっくり休み?
それ、ストレスたまってるから......とかやろ?
森崎 渉
......
坂倉 悠斗
な?
......じゃあ、俺帰るから。またな
森崎 渉
......おう
俺の病気を知ってるからだ。

きっとそう。


なんて思うのは、数日たった今でも変わらないが、やっぱり悠斗は......。
森崎 渉
くっそぉ......
俺の病気は治ってきていると、確かに分かっている。


でも、悠斗の優しさに嘘が混じってるように感じるのは......。
森崎 渉
はあ......



──......結局俺は、あの日悠斗と話した後、しばらくお見舞いに行くことができていない。









悠斗の言う、「覚悟」が、まだ......。








......やっぱりまだ、素の自分をさらすのはこわい。







それに、悠斗と会うのも......こわかった。



そらの前で、そらの聞いているところで、話をされるかもしれないなんて、そんなことを考えてしまったから




悠斗は、そういうことをしないやつなのに。























『......言い訳だな』





















ああ、久しぶりにでてきたのか。

......めんどうくさいやつ。







......まあ、分かってるけど。それくらい。






言い訳じゃなくて、全部、嘘だよ。


気づいてるクセに、気づいてないフリをしたかっただけだ。
















本当は......。

















もう、覚悟は......、できてる。














素の自分を、そらの前で出せるのかは、正直分からない。

どうも俺は、そらの前では自然とキャラを作ってしまうらしく......。



どうなるかは......運次第、なのかな。










森崎 渉
......よし




深呼吸して、俺は病室のドアをノックする。














──そのドアの横には、「相川そら 様」という文字があった。

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