あなたの耳に入ったのは、目の前の不審者達が出した叫び声だった。
何が起こっているのか、視界が真っ暗なせいで分からない。
ただ、何かが割れただけで、誰かが助けに来た気配はない。
あなたははっとなる。
砂と言われて思い出すのは、オーターから貰ったキーホルダーである。
キーホルダーは、瓶の中に砂が入っていた。
ということは、あの瓶が割れた、ということかもしれない。
しかし、砂を動かしているのは誰だろうか。
少なくとも、この部屋の中に居る誰かのものではない。
自分の魔法で自分を苦しませることはないし、あなたもそれは出来ない。
あなたは、オーターの固有魔法をよく知らない。
基本的な魔法を使っているところは見たことがあっても、固有魔法を使う機会はなかったのだ。
実際には、使っていたみたいだが、生憎あなたはそれを見逃していた。
ということで、聞いた情報しかない。
しかし、今はそんなことはどうでも良い。
逃げる事が最優先である。
鎖で繋がれていることも忘れて、あなたは走り始めた。
じゃらららら
勢いよく元に戻される。
壁に体を打つ。あなたの体には衝撃が走った。
瓶の中に入った砂はごく少量。
普通の大人ならまだしも、あなたを簡単に誘拐したような奴らだ。
体格が大きいのだから、長時間の拘束は容易ではない。
その場凌ぎの役割が大きいように思える。
そう言って、何かが飛んでくる音がした。
頰辺りに痛みを感じて、それが握り拳によるものだと気づく。
痛い、と言う声も出なかった。
何かが流れる感じが顔に広がる。おそらく血だろう。
もう一発飛んでくるのもすぐだろう。
あなたは恐怖に怯えながら、攻撃に構える。
ばん
物が当たる音がした。
パリン、という音も数秒後に聞こえたので、窓だと思われる。
ばんばんばんばんばんばんばん
その音は連続して聞こえた。
窓越し故にわずかにだったが、モナクの声が聞こえた。
誘拐犯達は、モナクが喋ったことに驚いている。
あなたの中では当たり前になりつつあったが、普通の人達からすれば異質なのだ。
ナイスである。
誘拐犯達には、どうやらモナク語は通じないらしい。
また、オーターが後ろ盾に居ることも知っているようだ。
やはり、かなりの情報を握っている。
オーターが来る。
今のあなたにとって、これ以上安心できる事はない。
どどどどどどどん
モナクとは反対方向から、轟音が響いた。
言い合っている隙に、砂があなたに近寄る。
そして、手錠と目隠し、そして口を覆っていたものを外した。
誘拐犯達は、オーターに夢中であなたなど見向きもしない。
静かに窓の方に近寄り、鍵を外す。勿論人力で。
オーターが居る方の扉を見ると、鍵は壊されている。
金属のような厚い板一枚で遮られているだけだ。
魔法対策だろう。
鎖の音がしないことに違和感を覚えたのか、あっさりバレてしまった。
あなたは逃げようとする。
しかし、部屋の中に隠れる場所はないし、逃げ道もない。
すると、モナクが部屋の中に侵入してあなたにそう促す。
あなたはまだ箒に乗る訓練をしていない。乗りこなすのには相当連取が必要らしいのだ。
それを今いきなり言われても、と言う感じである。
だが、他に手段はない。
誘拐犯達の手が伸びてきたところで、間一髪箒に飛び乗る事ができた。
そして、モナクは勢いをつけて、窓から外に出る。













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!