第2話

Prologue:後編
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2026/04/07 10:00 更新
「ヤザワ商店」

普段誰も通らないような狭い脇道を通ると、その店は姿を現す
古くからこの場所に店を構えており、その歴史は五十年に及ぶ

子供が喜びそうな駄菓子から、日用品、食品、時には家具までも並ぶことがあった
知る人ぞ知る、実家のような安心感を覚えるその店に、乱歩達は足を踏み入れた




おや、乱歩ちゃんに独歩ちゃんじゃないの


「久しぶりだねぇ」と笑顔で迎えてくれたのは、ここの店主
この店にくる常連客の目的は、ほぼこのお婆ちゃんと話す為といっても過言ではない


 国木田 独歩
前々から云っているが、その呼び方だけは止めてくれ……
善いじゃないの、私にとって独歩ちゃんはずっと独歩ちゃんなんだから


店主はニッコリ笑う
そして商品を取り出しに店の奥に入っていく

江戸川 乱歩
おばちゃん、いつものだからね!
はいはい、何処だったかねぇ……



本当に大丈夫かと疑いたくなるが、いつもの事なのでもう慣れた
店主が品物を取り出す間、国木田はいつものように手帳の確認作業をしていた


この店で買い物を終えた後、電車を乗り継いで墓地へと向かう
10時前後に墓参りを終え、乱歩さんを探偵社に送り届けた後に依頼された事件の調査に谷崎と向かう


よし、完璧だ



なに、また手帳を読み込んでいるのかい?



店主はそういいながら、2人の前に取り出した品物を置いた
『花柳界』と書かれた小さめの酒瓶だ


独歩ちゃんは真面目だねぇ、私にも独歩ちゃんみたいな孫が……
 国木田 独歩
孫が……?


国木田が続きを急かすように云う




……いたら良かったんだけどねぇ



いないのかよ!!
とツッコミたくなる気持ちを抑え、国木田は金を払う
店主はにっこり笑ってそれを受け取ると、釣り銭と一緒に品物を手渡した

江戸川 乱歩
ありがとね、おばちゃん
また来るよ
いつでもおいで、私は此処でずっと待ってるからね


店主に送り出された後、国木田たちは駅へと向かう


途中野良猫を見かけたが、近付いて写真を撮る間も無く何処かに逃げてしまった
社長に写真だけでも見せたかったのか、乱歩はしょんぼりと肩を落とす


それを見て、国木田は急かすように云う


国木田 独歩
行きますよ、乱歩さん






墓地


幾つかの墓石が規則的に並べられ、日の光と春風を一身に受けている
周りに植えられている桜は、蕾が多いものからほぼ満開のものまであり、成長速度の差を感じる


そんな中、乱歩は迷うことなく歩き進める
たどり着いたのは『若松 あなた』と刻まれた墓
乱歩は先程買った酒を墓の前に置くと、その隣に座り込む
何かを話す訳でもなく、ただ目に見えぬ何かを見つめているようだった
その間国木田は、乱歩に部容易に近付いたり話しかけたりせずひたすら乱歩の気が済むのを待つばかり


特に何か起きる訳でもなく時間は過ぎ行く



だが急に乱歩の様子が変わった

江戸川 乱歩
……無い
 国木田 独歩
どうかしましたか、乱歩さん


国木田が問いかけると、乱歩は大声かつ不機嫌そうに云う
江戸川 乱歩
ビー玉が無い!今日に限ってビー玉を忘れるだなんて本っ当にどうかしてる!


ビー玉がない、流石の国木田もこの事態では焦るというもの
ビー玉自体なら国木田の異能でも出せるが、乱歩さんはそのような異能で作られたビー玉を受け取ることはない
バレないようにこっそり入れ替えてもバレる


しかし……一体どうしたものか……

中島 敦
国木田さん、乱歩さん!


聞き覚えのある声がした
その方向を見ると、そこには矢張り敦がいた

 国木田 独歩
敦!どうしてここに……?
中島 敦
太宰さんに云われてこれを届けに来たんです


そう云って、敦は2人にビー玉を差し出した


……たまに太宰の気が利くのが気に食わない
が、乱歩さんの機嫌が悪くなるよりはマシだろう


そんな時、敦が差し出したビー玉を乱歩が受け取る
乱歩はビー玉を軽く覗き込むと、少し肩を落とし悲しそうに云う

江戸川 乱歩
これも違う……か
中島 敦
……違う?


敦が疑問符を浮かべるが、乱歩に「気にしなくていい」とはぐらかされてしまった

江戸川 乱歩
兎に角今日はもう帰る!


乱歩は酒瓶を持つと国木田に押し付ける

江戸川 乱歩
それ、与謝野さんと太宰にでも渡しといて
江戸川 乱歩
あー全く、帰ったらお八つ食べないと気が済まない!


普段よりは不機嫌だが、この程度で収まって本当に良かった
また1週間拗ねられたら業務が全く進まん

中島 敦
それにしても、此処の桜凄い綺麗ですね
敦が近くの桜の木を見てそう云った
 国木田 独歩
ああ、今年は疎らだか一斉に咲いた時は見物だ……


その時国木田の言葉が途絶えた
それと同時に、小さな何かが3人に衝突しながら間を通り抜ける


中島 敦
うわぁ!?


敦は体制を崩し地面に尻もちを着く
だが3人にぶつかった人物はちらりとこちらを見るだけで、止まることなく走っていく
一瞬の困惑の後、国木田はすぐに状況を理解した
乱歩から預かった酒がない、盗まれたのだ

 国木田 独歩
クソッ……!敦、追いかけるぞ!
中島 敦
は、はい!
敦は急いで立ち上がると、盗人の後を追う
盗人の足は以外にも早く、小柄な所為で中々に捕まえにくい
そこで敦は異能を使うことを選択した

脚部を虎化させ、盗人まで一直線に駆け出したのだ

さすがの盗人も予想だにしておらず、呆気なく捕まえることができた



あーもう!離せよカス!触んじゃねぇ!


盗人の正体は、幼い少女だった
腰ほどまである赤髪に、朱色の瞳
服はボロボロで、例えるなら敦の孤児院支給の服といったところだろう


少女は暴れるが、虎の力に抗うことはできない

江戸川 乱歩
全く……こんな子供が盗みを働くなんて、世も末だね


後から歩いて来た乱歩は、そう云って少女の顔を覗き込んだ

だが、乱歩の表情は瞬く間に凍りつく



江戸川 乱歩
なんで……
江戸川 乱歩
なんで君がここにいる訳……?



急に狼狽え始める乱歩に対し、少女と敦は困惑する
ただ一人、国木田が乱歩を落ち着かせようと試みたが、乱歩の意識に干渉することは無かった


江戸川 乱歩
君は……死んだはずだ
江戸川 乱歩
ねぇ……答えてよ




江戸川 乱歩
〝あなた〟!








はい、2000文字行ってしまいました

あまりProlog長くしすぎると本編の方が短く感じちゃうから、なるべく避けたかったんですけどねぇ……

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