マフィアビルへ戻る気力もなく、
私は人目がつかない路地裏へ駆け込んだ。
あぁ、やっぱりこういう場所は落ち着く。
光の届かない、とても細い道。
光が射さないから、
例え誰かが泣いていても…誰も気付かない。
初めは“ほんの少し”だった期待が、
無自覚のうちに強い気持ちに変わっていた所為で
現実が私の心を容赦なく引き裂く。
肉体的な痛みを受けている訳じゃないのに、
どうしようもないくらい痛くて、苦しくて
息が出来なくなってしまう。
乾いた空気が私の喉にあたり、
ヒリヒリと痛みを増す。
その所為で、余計に息が苦しくて、
浅い呼吸を繰り返す悪循環を生み出す。
このまま、誰にも気付かれずに
消えてしまうことが出来たら……
私の心は深い海の底に沈んだように
冷たくなっていく。
そんな時、私の携帯端末に着信が来た。
無論、乱歩さんからのメールや不在着信はいくつも届いているが、これはまた別の人物からの電話。
私は必死に息を整え、その電話に出る。
急な呼び出しに驚いたけど、
別にこの後用事があるわけでもない。
通話が終わると、
私は携帯端末の画面を見ながら立ち尽くす。
その画面に映っているのは乱歩さんの電話番号。
彼とはもう会えない。
だから、連絡先は消さなくちゃいけない。
そう思って私は、消去ボタンに指を置く。
だけど____
その一押しをすることは出来ず、
携帯端末を外套のポケットにしまった。













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!