──青春の、匂いがする。
リンゴのように顔を赤くして、
一人の女子が告白をしていた。
一瞬だけ時が止まり、周囲がざわめく。
なんといっても、そこは廊下のド真ん中。
嫌でも青春の瑞々しく爽やかな空気が毒のように漂ってきた。
あぁ嫌だ。
私は青春なんてものが嫌いだ。
青い春?
今は春なんて終わってもう秋だよ。
季節外れだよ。それに青いってなんだ。
春に色なんてついてるのなら是非お目にかかりたいものだよ。ふん。
まぁ、公衆の面前で告白をぶちかますくらいだ。
よほどOK貰える自信があったに違いない。
白くほっそりした体、小さな顔と艶やかな黒髪。
遠目からでも目が大きく、睫毛も長いことがわかる。
所謂パリピというやつだろう。
あぁ嫌だ嫌だ。
根暗系女子の私様には縁遠い存在だね。
絶対廊下に出るものか、あの青春の初々しい空気を浴びてなるものかと教室の隅で息を殺していた私に声がかかった。
見上げれば、先生がプリントを抱えている。
いやーな予感……。
空 気 読 め や。
アホなの?
お断りしますって言えるような肝の座ったヤツじゃないのをいいことに面倒ごとを押し付けやがって。
くそう。
仕方あるまい。
四十路に差し掛かる独身先生は私よりもこの空気がキツいだろうから。
仕方なくプリントを受けとる。
ざわつく廊下にソロソロと忍び足で出た。
目立たないように、目立たないように……。
ザワザワしていて、野次馬根性の生徒たちで溢れ返っている。
彼らをかきわけ、一生懸命前進する。
……そういえば、誰が告白されてるんだろう。
そんな興味を抱いて、聞き耳を立てたのがいけなかった。
聞いたことのないくらいに、冷めきった声だった。
青春の甘酸っぱさというより、SYURABA。
なんつーか、はい。失礼いたしました。
アカネはため息をついて、周囲を見渡し、そして。
あろうことか、私の二の腕をつかんで引き寄せたのだ。
急に渦中に飛び込まされた形になる。
あぁ……嫌な予感、的中。
アカネの鬱陶しい手を払いのける。
目の前の女子は目に涙をためて、私を睨んでいた。
強い怒気をはらんだ声に私は目眩を覚える。
なんで私がこんなことに巻き込まれなくちゃいけないんだ。
だから、青春は嫌いなんだよ。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。