◆ JAEHYUN side
玄関で座り込んでスニーカーを履いているテサンに覆い被さってバックハグをしながら一緒に行く旨を伝えると、彼は嫌そうに眉を顰めた。一緒に行く事に対してでなく、ベタベタしている事に対しての照れ隠しの表情だ…と思いたい。
俺を払い除けるようにスクッと立ち上がると、瞬く間に玄関のドアを開けて外へ出てしまうから慌ててその辺にあったキャップを被り、適当なスポーツサンダルを履く。
俺のではない(多分ウナクの)少し大きいスポーツサンダルだったので、小走りでテサンを追いかけて1回ずっこけそうになった。
扉が開いているエレベーターが見えたのでテサンの腕を引っ張って小走りで向かう。
乗り込んだエレベーターに乗っていたのは1人の女性だった。
ぺこりと頭を下げると、女性はにこりと微笑んでから扉を閉めるボタンを押した。
俺たちはそれぞれ声を出す。
だって目の前にいたのは会いたいと思っていた彼女だったからだ。
ん?でもどうしてテサンまで声を出したんだ?
ちらりと彼を見ると、テサンはほんの僅かに目を見開いて驚いたような顔をしていた。ポーカーフェイスを貫いているように見えるが、いつもより瞬きの回数も多い気がする。
しかし、その"どうして"よりも、目の前にいる彼女のほうが今は思考が優先したくて。
彼女に話しかけないと。
でもテサンも一緒だしどうしよう。
そうこう悩んでいる間に着いてしまった目的地の1階エントランス。
彼女は「開」のボタンを右手で押しながら、優しい笑顔で左手でエレベーターの外へ向かって手を差し伸べてくれた。慣れているスマートな仕草に、素敵だなと思った。
最初に出て行ったのはテサンだ。
小さくぺこりと頭を下げて何事もなかったかのように出ていく。さっき驚いたように見えたのは気のせいだったのかもしれない。
そして残った俺。
話しかけるなら今がチャンスだ。
ぐっと握った拳。まるで全力疾走したように心臓が早くリズムを刻む。バクバクとした音が煩かった。
動かない俺を見て、彼女はもう一度ゆっくり微笑んでくれた。
きみをじっと見つめると、今日はちゃんと目が合った。透き通った、綺麗な瞳だ。
ーーしまった。
意を決して声を出したら、思いの外大きな声が出てしまった。彼女は驚いて小さく肩を揺らした。
そんな小動物みたいな反応がなんだか可愛くて。
驚かせてごめんなさい、とか。
このマンションに住んでいるんですか?とか。
この前は無事に寝れましたか?とか。
俺の事覚えていますか?とか。
どうしてきみは泣いていたの?とか。
いっぱい言いたいことがあった。
いっぱい聞きたいことがあった。
でも実際彼女を目の前にしたら何も言えなかった。
結局俺は、物凄い勢いで頭を下げて大きな声でお礼を言ってドタバタとエレベーターを降りていく事しかできなかった。














編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!