ロンジュンが最近、猫を飼い始めた。
何度引っ掻かれてもただただ可愛いと言って笑い、手のひらに大切そうにすくい上げる。弧を描く優しい瞳は、もうずっと猫ちゃんだけのものだ。
俺にだって猫ちゃんがいるし、気持ちは痛いほど分かる。可愛くて仕方なかった子猫時代だって昨日のことのように思い出せる。だけど、その関心がこちらに少しも向かないことがこんなにも気に食わないものだなんて、思いもしなかったから。
手のひらをするりと抜けて駆けていく猫ちゃんを追って、リビングから繋がるキッチンへ。おやつはさっき食べたでしょう?愛しい子に向ける優しい声色にもやっとしてしまう自分に嫌気がさす。俺ってこんなに心狭かった?
弱々しい声とともにロンジュンが戻ってきた。猫ちゃんには振られてしまったようで、その足取りは重い。
猫なんて自分がいちばんなんだからロンジュンなんて絶対に下だよ、と言ってしまいたいところだけれど、あんまり悲しそうな顔をするから。言葉は押し留めて、代わりに助言してあげることにした。
猫ちゃんに関しては俺の方が先輩だ。ロンジュンの表情も少し気が晴れたような明るいものになって幾分か安心する。
ようやく落ち着いてソファに深く座り直したロンジュンの、足もとを駆け上がり膝におさまる小さい子。飼い主が他のやつと話してるのが嫌だったのか、はたまた、ただの気まぐれか。みゃあ、と小さく鳴いて俺をひと目見やると、すぐに顔を逸らして。
…………なんだろうこれ、マウントっていうやつ?
猫好きでしょ?問いかける視線は俺を見てる。ものすごく久しぶりに向けられたきらきらの瞳に吸い寄せられるように。或いはきみに捕まった猫のように。無意識に伸びた手に力が籠る。
甘えるの珍しいね、なんて、無防備すぎるでしょ。抱き寄せた腰は猫みたいにふわふわじゃないし、顔に当たる前髪はくすぐったい。それでも柔らかくて、微かに花の匂いがする小さな体をこの手におさめるのはなんだか気分が良い。
何の疑問も浮かべずに、都合よく猫だと言い張る俺の襟足をさわさわと撫でる。あ、猫だからこっち?と、顎を触られそうになってようやく体を離す。咄嗟に理性が働いた、というか、正気に戻ったという方が正しいか。甘えるのはロンジュンの方が得意なのに、何をうっかり甘えてしまってるんだ、俺は。
ロンジュンの視線を辿れば、飼い主の膝の上ですやすやと眠る子猫。その未熟な毛並みをそっと撫でて、これ以上ないほどやわらかく微笑むロンジュンが。
fin.












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。