大毅が起きてきた。
夜の8時。
4時間ぐらい寝てたかな…
あの手紙が頭から離れなくて、
大毅の前で泣きたくなくて、
早くこの場から逃げたかった。
シーンと静まりかえった部屋。
たまらずテレビをつける。
なんでもいいから、
気持ちを紛らわせたかった。
大毅の前で泣かないように…
シャワーと一緒に涙も流した。
枯れ果てるまで、沢山流した。
神様、どうか大毅の前で泣きませんように…
笑顔でいられますように…
めんどくさそうに、
だけど、丁寧に優しく乾かしてくれて。
ゴロゴロからマフラーを取り出す。
大毅にマフラーを巻いて、
2人で外へ出る。
後ろからギュッとしてくれる。
あったかくて、幸せだ。
このまま時間が止まればいいのに…
なんて思うと、
込み上げてくるものがあって…
すぐに大毅から離れた。
完全に照れてる顔。
わざわざ買いに行ってくれたんだね。
って事は、クリスマスカード…
お店の人がいたから、書けなかったのかな?
ありがとう、大毅。
大好きだよ。
空を見上げる。
まだ降り始めだから少しだけど、
風でハラハラ舞っていて。
広げた私の手のひらにそっと落ちる。
落ちた雪はすぐに溶けてなくなって。
そんな雪を見ていると、
なぜか切なくなってきて。
両手を広げると、
と、優しく抱きしめてくれた。
雪が入ったなんて嘘だ。
目を開けたら涙が溢れてきそうになったから。
そんな顔見せたくなかったから。
大毅の胸の中で必死に我慢した。
ごめんね、大毅。
ごめんね…
朝、大毅を見送ってから、
東京駅へ向かった。
新幹線の中からメッセージを送る。
“今新幹線の中だよ。やっぱり帰るね。鍵はジャスミンに渡したよ。仕事頑張ってね。”
昨日撮った2人の写真も一緒に送る。
するとすぐに、
“帰るんかい!気をつけてな!それにしても、ええ写真やな!また撮ろ!”
改めて見ると、本当にいい写真で。
幸せそうな2人の写真。
しばらく目が離せなかった。
家に着く。
部屋に戻ってからすぐ、大毅に手紙を書いた。
今の気持ちが揺らぐ前に…
“大毅へ
突然の手紙、ごめん。
言葉ではうまく伝えられないから手紙にしました。
私ね、ジャスミンの事が心配で家に言った時、大毅のファンの子に会ったんだ。
イベントで大毅に会えるのすごい楽しみにしてたんだけど、活動休止になって会えなくなったって怒ってて。
家にまでくる!?って思ったけど、すごく悲しそうだったのはわかって。
その時気づいたんだ。
大毅のおかれてる環境とか、責任とか、きっと私にはわからない沢山のもの、背負ってるんだろうなって。
でね、それを考えた時、怖くなった。
大毅が大切にしてるファンの子とか、スタッフさんとかの信頼を壊したくないなって。
私にとっての大切なものは大毅だよ。
だから、大毅の大切なものは私も大切なんだ。
だからね、つらいけどもう会わない事にする。
私たち、別れた方がいいと思う。
ごめんね、大毅。今までありがとう。”
本当は待ってるよって言いたいけど、
迎えに行かなきゃって思うでしょ?
だから絶対言いたくない。
それじゃ離れる意味ないもん。
わたしができる事って、
これぐらいだよね…
ペンを持つ手が震えてきて、
とめどなく溢れてくる涙が、
手紙の文字を滲ます。
会えなくなることが、
別れる事が、
こんなにこんなに、
苦しいなんて…
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。