わんわんさんの歌に出会った次の日、私は、1週間ぶりに学校に行くことができた。
みんなに心配をかけないように、笑顔で教室に入った。
ゆきちゃんは、私の親友。
とても優しい子で、いつも、私のことを考えていてくれる。
よかったぁ~だって。
可愛いなぁ!笑
はぁ…
ゆきちゃんには言わなきゃだよね。
応援してくれてたのに。
言いづらいよ…
繊細なゆきちゃんの心を傷つけちゃう…
そう言ってゆきちゃんは、いつもの笑顔で笑いかけてくれた。
あ…
直樹…
直樹が教室に入ってきた。
私は俯く。
目を合わせられない。
どうしよう…
やだ…
華ちゃんの話…
幸せそうで何よりだよ。
だけど……
やだ。
やだよ。
やだやだやだやだっ!!
聞きたくないっ…!!
苦しい…
呼吸が上手くできなくて、急に不安になってきた。
どうしよう…どうしよう…
怖い…
助けて…
ゆきちゃんは、近くにあった紙袋で、私の口を覆って、体をさすってくれた。
だんだん、苦しくなくなってきて、しばらくしてから落ち着いた。
ゆきちゃんは、直樹のことを見ている。
バレちゃった…よね…
学校に来てみたものの、やっぱり実際に会うと、辛くなる。
楽しかった思い出がよみがえればよみがえるほど、私は悲しくて、今までに感じたことのない不安が押し寄せてくる。
なんで不安なんだろう。
私はいつも、直樹がいたから安心していられたのかな。
って、今更だよね。笑
直樹…
少し愛おしくなった。
直樹の方を見る。
直樹の笑顔。
私、大好きだったな、あの笑顔。
でも、今は違う人を思って笑ってる。
「華と付き合うことになったから、別れて」
あっさり言われたあの言葉。
思い出して、また辛くなる。
酷いよね、直樹。
なのに、まだ嫌いになれない。
どうして…?
最低な奴だって、思ってる。
それでも、嫌いになれないのは、どうしてなんだろう。
はぁ…
もうやだ。
辛くて泣きそう…
忘れちゃえば、こんな辛い想いも、しなくていいのに。
だから…
だからやっぱり、
ゆきちゃんは、混乱した様子だ。
そりゃ、そうだよね。
いきなり、記憶喪失になりたいだなんて。
バカみたいだし…
その日は、1日中、辛くて仕方がなかった。
家に帰って、わんわんさんの歌を聴く。
あぁ。やっぱりいいなぁ。
自然と元気になれる。
明日も頑張って学校行こうかな?
今日の辛さを忘れてしまうくらい、わんわんさんの歌は、私にたくさんの勇気を与えてくれているような気がした。
窓から、隣の家の翔(かける)の部屋を眺める。
まだ電気点いてる。
勉強かな?
いや、まさかね。笑
翔は私の幼なじみで、小さいころからよく一緒に遊んでいた。
高校が離れてからは、あんまり会ってないけど…
すぐ会える距離だし、久しぶりに話もしたいな。
明日にでも、誘ってみようかな。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。