高良君に加えて、高良君の友達とも話せるようになった私は、以前よりグラウンドへ行くのが楽しくなっていた。
そして、部活が始まる前に高良君が手を振り、私が振り返す、というのが日課のようなものになっていた。
部活が始まると高良君はさっきまでとはまるで別人のように、キリッと引き締まった表情をして部活に臨む。
私はそのオンオフがとても好きだった。
……あ、これは恋愛とかそういう意味ではなくて、普段の顔と部活の顔、2つの顔を持っているということにとても魅力を感じたというだけだ。
そして私はいつからか、スケッチブックの最後のページに、高良君の姿を描くようになった。
もちろん本人には内緒だ。
気持ち悪いわけがないとは言っていたが、やはりずっと見られているというのを不快に思う人は少なくない。高良君もその1人かもしれない。
私の自己満足のような絵のために、高良君に不快な思いをさせるわけには……と思い、コソコソと課題とは別にもう1枚絵を描いていたのである。
そして、本来課題の方に力を注ぐべきなのだが、どういうわけか自己満の方が筆が進む。
こういうと馬鹿っぽく聞こえるかもしれないが、ぐわーっとこみ上げてくるものがあって、それがそのまま筆に移っていくような。
それから部活終了時間まで描き続け、この絵を早く完成させたくなった私は、明日の土曜日にも学校へ来て絵を描こうと決めた。
土曜日。
うちの学校のサッカー部はかなり強いため、休日でもやっているだろうと勝手に思い込んで来たが、やはり部活を行っていた。さすが。
でも何か人数が違う気が……
と、私は違和感を感じた。
よくよく見ると、レギュラーの選手はユニフォームを着用しており、また後から大きなバスがやってきて、試合らしきものが始まった。
とりあえず絵を描くために高良君を探すと、しっかりユニフォームを着ていて、いつもの部活中の真剣な表情をしていた。
『頑張れ』
と小さく心の中で呟き、私は試合観戦兼応援兼部活を始めた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。