その日の夜、私は友達から次々来るメッセージの返信に追われていた。
" やっぱりいとこじゃないじゃん!笑 "
" 今度私にもイケメン紹介してよ! "
そんな友達へ、私は " ただの友達で付き合ってはないから! " と返すのに精一杯。
到底、うちの猫だよ…とも言えず。言う気にもなれない。
そんな中、また一件のメッセージが届いた。
" あの金髪とはやっぱり付き合ってたんだ "
………これは永瀬くんだ。永瀬くんとは初めてメッセージでやりとりをするけど、届いたのはただこの一文だけ。
もしかしたら、永瀬くんは私を嘘つきだ、と思ってしまってるかもしれない。
どうしよう、せっかく仲良くなれたのに。
もう猫の話だって、出来なくなるのかもしれない。ミーシャちゃんにも、会えなくなるかもしれない。
そう考えると、怖くなって。でも私は返信が返せない。変なことを言って、本当に私のことを軽蔑しちゃうかもしれないから。
握りしめていた携帯を置き、私は、ため息をつきたいのを我慢してベッドに体を預ける。
エーシュカはリビングにいるみたいで、部屋の中はチク、タク、とただ時計の音が聞こえるだけ。
" 俺の好きな奴 "
あの言葉、思い出しただけでも頭がおかしくなっちゃいそうで。
まさか自分が大事にしていた猫に、そんなことを言われるなんて。
ああでもそっか、エーシュカは他の猫とは違って、昔から人間の言葉や感情がよく分かっていたんだ。
でも私、エーシュカに好きになってもらうような容姿は、持ってないし、なぁ…
聞き間違え……はないか。頭にキスされたことははっきりと覚えているし、まだその時の感覚が残っている。触れられた手の感覚も、全部。
「どうしたら、いいのかな…」
私が吐いた言葉は、行くあてもなく、ただ音になって消えていく。
何に対して、私がどうしたらいいのかと悩んでいるのか、自分でもうまく言い表せられない。
もし、エーシュカが猫じゃなくて普通の人間だったら?永瀬くんみたいに私のクラスメイトだったら?
こんなこと考えるのは、間違っているかもしれない。
でも、私の心の中でエーシュカへの気持ちが前と変わっていっているのは……確かだった。紛れもない、事実だった。
ちゃんとあの時の言葉の意味を、エーシュカに聞かなきゃ。ちゃんと説明してもらわなきゃ。
誰にも相談できないからこそ、自分自身を受け止めないといけない。
自分の気持ちを、認めてあげないといけない。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。