第27話

君はどうする?
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2019/07/28 14:45
敦はあなたを抱え、走る。

敦の腕の中で弱く息をするあなたを見てより速く走る。
(段々息が弱くなってきてる気がする。)
火傷の痕からは乾燥して、割れた箇所からは赤く、暖かいが伝う。

其れを見て更に速く走る。



た、只今戻りました!
ドアを勢い良く開ける。

敦が戻るなり直ぐに駆け寄ったのは与謝野だった。
与謝野医師
敦!
あなたの様態は?!
段々息が弱くなってきてます!
与謝野医師
判った、早く医務室へ…!
はい!と与謝野の後を追う敦を探偵社にいる調査員達は眺める事しか出来なかった。
敦がベッドに寝かせると与謝野が敦に外に出るよう促す。
其れに従い敦は名残惜しそうに離れる。

与謝野医師
こりゃ酷いね。
火傷による傷、そして乾燥。
ん?此れは…
一番目立った傷は火傷と乾燥による傷。
身体の所々には自分で傷を付けたような痕も在り、其れに気付いた与謝野は顔を歪ませる。
与謝野医師
其れ程両親との別れは苦痛だったのかい?
気を失っていて応える筈のないあなたに話し掛け、治療をする。




━━━━━━
治療が終わり、一時間程であなたは目を覚ました。

目を覚ますと側に居たのは敦と国木田と太宰であった
3人はまだあなたが眠っていると思いあなたについて話している。
内容はあなたの家の事についてだった。
あなたさんの家ってそんなに凄いところだったんですか?!
国木田
あぁ。
あなた

私の家が凄いかどうかは判らないけど、私に居場所はもう無いよ

三人は驚き、目を見開く。
太宰
やぁ、おはよう。
目覚めはどうたい?
あなた

身体が軽い。

国木田
其れは佳かったが、お前に居場所が無いというのはどういうことだ?
眉間に皺を寄せ不機嫌そうに言う。
あなた

そのまんまの意味。
調べてわかったんでしょ?
私の両親は死んだ。そして私は伯父と伯母に引き取られた。でも、そんなのは周りの評価ステータスや遺言書の為だった。彼奴等は只の金の猛者だよ。

与謝野医師
あんたの体見りゃ判るよ、苦痛だったんだろ?
不意に与謝野の声がし、そちらを向く。

そこには与謝野だけでは無く他の者もいた。
与謝野さん、皆さん!
潤一郎
与謝野さんそれはどういう意味ですか?
与謝野医師
あなたの身体はズタズタだったよ。
はっきり言って此処まで自分の身体をズタズタにした子は初めて見たよ
顔を歪め、苦しそうに与謝野は云う。
あなた

与謝野医師でも初めて見るんだね。
精神科担当ではないだろうと思うんだけどそれだから初めてってこと?

あなたは素朴な疑問を投げ掛ける。

あなたと与謝野の付き合いはとても浅いが今まで病院に居たあなたからすると与謝野が精神科担当ではないことは一目瞭然だ。
与謝野医師
否、一度だけ精神科の病棟を見たことが有ったけどそれでもアンタ以上に酷い子は居なかったね。
あなた

あぁ、そう言うことか。

其の言葉に納得がいく。

重みが違った。
重く、苦しく、辛く。
其の様なものだった。

与謝野医師
其よりも先ずは。


約束、果たせたじゃないか…!
さぁ、何か食べに行こうじゃないか!
あなた

約束…。
そうだった、此処はもう探偵社だったね。

あなたには約束を果たせたことが迚嬉しく思えた。

だが、その事を誰も信じないであろう、表情を見る限りは。


それでも、その場にいた数人だけでも気付けたのだ、あなたの気持ちの、心の変化に。
太宰
さぁ、あなたちゃん!
君には色々な選択肢が在るけれどどれを選ぶ?
あなた

色々な、選択肢…。

君はどうする?
其の選択肢をあなたはどういうのが在るのか判っていない。

それを選ぶと言うのは迚難しいことだった。
あなた

選択肢って具体的にはどんなのがあるの?

国木田
此のまま大人しく夜華家に帰る
此のまま大人しく病院に戻る
此のまま此処に留まる
此のまま此処を出て野垂れ死ぬ

色々在るが
具体案をさらさらと国木田の口から流れる。
あなた

いっぱいだね。
でも、私は居場所も何も無い者だよ?

そんなこと…!
太宰
敦くん
あなたの言葉を遮ろうとする敦を止める
あなた

でもさ、此処に居ても良いの?
私は何も無いよ?
迷惑も掛けるかもしれない。
それでも良いの?

太宰
君はどうする?
否、どうしたい?
質問を質問で返す。

あなたは少し混乱し、頭を整理する。頭の良いあなたには理解できないことではない。


太宰は自分で自分のことを決めろと遠回しに伝えている。
そう、理解ができた。
あなたは心の奥底では此処に、探偵社に居たいと望んでいた。

だが、感情のコントロールと表現が下手になってしまった今では其れを上手く伝えられない。どう伝えたら正解なのかが判らない状況であった。
鏡花
貴女のしたいようにすれば良いんじゃない?
鏡花がポツリとそう、呟いた
あなた

私は、此処に居たい…。
邪魔だと思われるまで私は此処に居たい。
邪魔だと思われたら私は居なくなる、其れまで居させて…!

そう言葉にすると何かが着地したように思えた。


でも、周りの反応はあまり良いものとは云えないだろう。

苦虫を噛み潰したような顔をしている者が数人居る。
太宰
邪魔だなんて思わないさ。
此処に居ると謂うことは此処で働くってことだよ?
ですよね、社長。
福沢
…あぁ、そう謂うことだ。
スッと扉から音も泣く現れたのは武装探偵社社長・福沢諭吉だった。

あなた

働いてでも良い…。
此処に居たい、居させて…!

一言目には暗く重く言っていたが、二言目には吹っ切れた様に云った。

まるで何かを覚悟したように。


其の覚悟はまた、後の話である━━━━━━。

福沢
佳いだろう。
だが、正式の社員では無い。
敦、鏡花二人に一任する
正式な社員では無いというのは試験を通貨パスしていないからである。
だが、そのような事を誰一人として云えない。


此れは実際調査員だけであるが福沢はあなたを調査員にしようとしていた。
理由はあなたには人を守れるのではと目を見てそう思えた、又、異能力が安定していない事を視かねた為である。


その為あなただけが何故なのか判っていない
はい!
鏡花
承知した。
こうして、あなたは探偵社の仮社員となった。

あなたの入社試験は━━━━だった。

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