敦はあなたを抱え、走る。
敦の腕の中で弱く息をするあなたを見てより速く走る。
火傷の痕からは乾燥して、割れた箇所からは赤く、暖かい物が伝う。
其れを見て更に速く走る。
ドアを勢い良く開ける。
敦が戻るなり直ぐに駆け寄ったのは与謝野だった。
はい!と与謝野の後を追う敦を探偵社にいる調査員達は眺める事しか出来なかった。
敦がベッドに寝かせると与謝野が敦に外に出るよう促す。
其れに従い敦は名残惜しそうに離れる。
一番目立った傷は火傷と乾燥による傷。
身体の所々には自分で傷を付けたような痕も在り、其れに気付いた与謝野は顔を歪ませる。
気を失っていて応える筈のないあなたに話し掛け、治療をする。
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治療が終わり、一時間程であなたは目を覚ました。
目を覚ますと側に居たのは敦と国木田と太宰であった
3人はまだあなたが眠っていると思いあなたについて話している。
内容はあなたの家の事についてだった。
三人は驚き、目を見開く。
眉間に皺を寄せ不機嫌そうに言う。
不意に与謝野の声がし、そちらを向く。
そこには与謝野だけでは無く他の者もいた。
顔を歪め、苦しそうに与謝野は云う。
あなたは素朴な疑問を投げ掛ける。
あなたと与謝野の付き合いはとても浅いが今まで病院に居たあなたからすると与謝野が精神科担当ではないことは一目瞭然だ。
其の言葉に納得がいく。
重みが違った。
重く、苦しく、辛く。
其の様なものだった。
あなたには約束を果たせたことが迚嬉しく思えた。
だが、その事を誰も信じないであろう、表情を見る限りは。
それでも、その場にいた数人だけでも気付けたのだ、あなたの気持ちの、心の変化に。
其の選択肢をあなたはどういうのが在るのか判っていない。
それを選ぶと言うのは迚難しいことだった。
具体案をさらさらと国木田の口から流れる。
あなたの言葉を遮ろうとする敦を止める
質問を質問で返す。
あなたは少し混乱し、頭を整理する。頭の良いあなたには理解できないことではない。
太宰は自分で自分のことを決めろと遠回しに伝えている。
そう、理解ができた。
あなたは心の奥底では此処に、探偵社に居たいと望んでいた。
だが、感情のコントロールと表現が下手になってしまった今では其れを上手く伝えられない。どう伝えたら正解なのかが判らない状況であった。
鏡花がポツリとそう、呟いた
そう言葉にすると何かが着地したように思えた。
でも、周りの反応はあまり良いものとは云えないだろう。
苦虫を噛み潰したような顔をしている者が数人居る。
スッと扉から音も泣く現れたのは武装探偵社社長・福沢諭吉だった。
一言目には暗く重く言っていたが、二言目には吹っ切れた様に云った。
まるで何かを覚悟したように。
其の覚悟はまた、後の話である━━━━━━。
正式な社員では無いというのは試験を通貨していないからである。
だが、そのような事を誰一人として云えない。
此れは実際調査員だけであるが福沢はあなたを調査員にしようとしていた。
理由はあなたには人を守れるのではと目を見てそう思えた、又、異能力が安定していない事を視かねた為である。
その為あなただけが何故なのか判っていない
こうして、あなたは探偵社の仮社員となった。
あなたの入社試験は━━━━だった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。