「皆…」
あれだけ短い時間だったけれど、私にとってはとても、大切な時間だった。思い出だった。記憶だった。
私はしばらく泣いたあと、父の作業場をゆっくりと見回した。窓からオレンジ色の光が差し込むまで、ずっと、お父さんの作品を見回した。
ちっちゃい頃、1度だけお父さんが作品を作っているのを見たんだっけ。なんで忘れてたんだろう。でも、思い出せて、良かった。
帰ってくると、珍しく、お母さんが先に帰っていた。
「おかえり。今日、線路に落ちて入院したって聞いたから急いで来たのに、あなたったら、病院抜け出すんだから、びっくりしたわよ。」
「あ、そんなことになってたんだ。」
私がぼそっと呟くと、お母さんは、変な子ね、と笑いながら、夕飯をテーブルに運んだ。
「一緒に食べるの、久しぶりね。」
「うん。」
それから、何気ない会話が続いた。久しぶりのお母さんとの会話に、なんだか涙が出てきて、
お母さんに、また、変な子と笑われながら、ぎゅっと抱きしめてもらった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。