第31話

夕暮
60
2018/01/12 16:14
「皆…」

あれだけ短い時間だったけれど、私にとってはとても、大切な時間だった。思い出だった。記憶だった。

私はしばらく泣いたあと、父の作業場をゆっくりと見回した。窓からオレンジ色の光が差し込むまで、ずっと、お父さんの作品を見回した。

ちっちゃい頃、1度だけお父さんが作品を作っているのを見たんだっけ。なんで忘れてたんだろう。でも、思い出せて、良かった。

帰ってくると、珍しく、お母さんが先に帰っていた。

「おかえり。今日、線路に落ちて入院したって聞いたから急いで来たのに、あなたったら、病院抜け出すんだから、びっくりしたわよ。」

「あ、そんなことになってたんだ。」

私がぼそっと呟くと、お母さんは、変な子ね、と笑いながら、夕飯をテーブルに運んだ。

「一緒に食べるの、久しぶりね。」

「うん。」

それから、何気ない会話が続いた。久しぶりのお母さんとの会話に、なんだか涙が出てきて、
お母さんに、また、変な子と笑われながら、ぎゅっと抱きしめてもらった。

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