学校の部室にて。
三色のタイムカプセルが机に並べられ、その周りを私たちが囲んでいた。
そう合図してみんなで一斉にタイムカプセルの蓋を開けた。
蓋にかかっていた砂がぱらぱらと落ちる。
私はそう聞かれて、手元にある自身の手紙に目を落とす。
そこにはただ、毎日が楽しくて幸せで、未来の自分もそうであってほしいということだけが綴られていた。
青いタイムカプセルにあった手紙と黄色いタイムカプセルにあった手紙の内容は全て同じ。
恐ろしいことに、筆跡でさえ一致している。
岬はそう言ってカバンからノートとシャーペンを取り出し、文字を書き始めた。
ノートに、綺麗な字で「赤いタイムカプセル」という項目が書かれる。
そして、段落を変える。
筆が止まり、シャーペンの芯を出す。
そしてまた、段落を変える。
そして、シャーペンの芯が削れる音が止まる。
岬がシャーペンを机に置いて、私たちを見上げた。
尋葉がそう返事をすれば、岬はそう、と相槌を打ってからさっき言ったことを纏めたノートのページを丁寧に破って私に差し出した。
岬はそう言って私の手を握り、てのひらにそっとノートの1ページを置いた。
···あれ?
私がそう言うと、岬は慌てて「この後用事あるから帰るね!バイバイ!」と部室を出ていった。
そうして、今日はこの場で解散した。
二人は特に気にしていないようだったけど、私には少しだけ心にしこりが残っている。
岬のあの今にも泣きそうな顔を、私はどこかで見た覚えがあるのだ。
どこで見たかは分からない。忘れてしまった。
でも確かに、“忘れてしまった大事な記憶”の中にあったような気がする。
思い出したい。けれど、思い出せない。
────あったはずの何かがないだけでこんなにも息苦しくなる。
私は今日初めて、それを知った。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。