柔らかな木漏れ日が溢れ、風が光を遮る木の葉に生命を与える。それは炎のように揺らめき、その一年という短い歳月しか生きられない儚い命を輝かせていた。
ここは、[music forest]と呼ばれる歌と魔法に溢れる美しい森の中。私、エイカが生まれてからずぅっと住んでいるところである。
今はその森の中、私は碧石のように青く美しく輝く髪と瞳を持った少年と共に花園で座りながらお話をしていた。
優しい風が吹いて、彼……カイトの髪を揺らし視界にかかる。彼はそれを鬱陶しそうに払い、私に向かってけだるそうな声で問いをかけた。
「ねぇエイカ、最近なんか変わったことはあった?」
「変わったこと、ねぇ……」
「ほら、歌の魔法とかそういうのなんかないの? 精霊との契約とかだいぶ進んだんじゃない?」
どうやら、カイトは私が使える珍しい魔法のこと……歌の魔法について興味があったようだ。ちなみに歌の魔法とは、先ほどカイトが言った通り精霊さんと契約することができるものである。
古来よりこの世界に干渉し、人間の世界を繁栄に導いた存在で人間と共存してきた精霊さんは、普通の方法では話すことはおろか見ることすらできない。しかし、歌の魔法を使い精霊さんと契約する通称精霊使いと呼ばれる人物が契約している場合のみ話は別だ。
精霊使いが契約している精霊さんは精霊使いが近くにいればほかの人間とお話しすることができるし、たまに助けてくれることだってある。
しかし、近年では精霊使いが減少しているという話をよく聞く。何故なら、精霊使いになるには特別な才能が必要なのだが、その才能を持っている人間が現れなくなったからだ。
でも大丈夫、私は歌の魔法を使って精霊さんと契約することができる数少ない精霊使いの見習い? なのだ。それに、私には精霊使いとしての才能があったらしい。もうすでに下位精霊では風の精霊であるシルフさんや水の精霊のウンディーネさん。それに、契約するのが難しいとされる上位精霊二人と契約することができている。
普通の精霊使いであれは、鍛錬を積んで大体十年でようやく下位精霊と契約することができるといわれているのに、12歳で始めてから約二年たった14歳で契約できてしまった私は精霊使いの中では異常といえるだろう。
しかし、私はそんな現状にまだ満足していない。もっと、できるはずなのだ。だから私は……。
「今は炎の上位精霊のイフリートさんと契約したいなと思っているよ!!」
「え!? イフリートさんって、あのもっとも契約するのが難しいって言っているあのイフリートさん? よくそんなのと契約しようとしたね……」
「ま、それくらいしかこの村ではやることがないからね……いっそのことこの村の外に出られたらいいんだけどね……」
ここで、ふと我に返った。そうだ……旅。旅に出ればいいのではないか!? そうすれば、この平和で安全、言い換えれば単調でつまらない日々から脱することができる。私は、嬉々とした笑顔でカイトのほうを見た。カイトは何だか嫌そうな顔をしている。
「……どうした?」
「旅……旅に出ようよ!!」
「いやだよ」
カイトが即答する。そういえばカイトはこんな感じで、確実に安全な道を通ろうする性格であった。きっと、旅は危ないとか危険だとか言う固い考えに縛られているのだろう。
しかし、私はあきらめない。固い考えに縛られているのであれば説得するしか道はないじゃない!!
「なんでよ、絶対楽しくなると思うよ?」
「確かに楽しいかもしれないよ? けど、お母さんが絶対反対するって……」
「説得すればいいだけの話じゃん!! 私はまだ見たことのない世界を見てみたい!! たまにつらいこともあるのかもしれないけどそれでも旅に出たいの!!」
「……まあ、それも悪くないかもしれないけど……というか、僕も道連れ?」
カイトの意見が若干揺らいでいる。これはチャンス。
「勿論!! カイトも一緒だよ」
「……わかった。けど、お母さんに反対されたらだめだからね」
「やったぁ!!」
ということで、私は立ち上がってカイトの手をつかみ引っ張る。カイトはやはりけだるそうにしながら立ち上がって一緒に家のほうへ歩を進めるのであった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。