「社長、少しお時間いいですか」
「どうしたの?」
「実はですね…」
私は、夫の会社を引き継いで、社長として仕事をしてきた。
そんな私が病気になったんだから、
後継者を考えなければ…
とはいえ、娘のことも気になる。
死ぬ間際にこんなに考え事が増えるとは。
「そういえば、社長お聞きになりましたか?」
「何?」
「娘さんの結婚」
「それはもちろん」
「紹介したの、実は私なんです。」
「え!?なんで!?」
「娘さんに頼まれたんです。」
どうして副社長の彼に、娘が結婚相手を紹介してくれ、なんて頼んだんでしょう。
理由は、簡単でした。
「会社の跡継ぎが必要でしょ?プラス、私の花嫁姿が見せられる。一石二鳥じゃない。」
娘らしい考えです。
自分のことなんて後回しなんですから。
でも、娘には、幼馴染がいます。
素敵な、仲のいい、幼馴染が。
密かに、私が応援していた二人です。
どうしたもんか。
娘の思いを踏みにじりたくはありません。
でも、娘には幸せになって欲しい。
「あなたは、どう思う?」
「私ですか?」
「大体、あなたが紹介したんじゃない。」
「そうですけど…娘さんのお願いでしたから」
「まあ、そうね」
「紹介した人は、私もよく知っていますが、本当に真面目で誠実なやつです。心配なさらなくて大丈夫かと…」
「娘も言っていたわ、幸せだとかなんとか言って。」
「でしたら…」
「でもね〜」
望まない結婚。
決して、私の人生も幸せじゃなかったとは言わない。
夫は私を大切にしてくれたし、素敵な娘にも恵まれたのだから。
____それでも初恋の人は、思い出すものよ。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。