第9話

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2019/06/30 13:52
「社長、少しお時間いいですか」


「どうしたの?」


「実はですね…」




私は、夫の会社を引き継いで、社長として仕事をしてきた。
そんな私が病気になったんだから、
後継者を考えなければ…





とはいえ、娘のことも気になる。





死ぬ間際にこんなに考え事が増えるとは。



「そういえば、社長お聞きになりましたか?」

「何?」

「娘さんの結婚」

「それはもちろん」

「紹介したの、実は私なんです。」

「え!?なんで!?」

「娘さんに頼まれたんです。」



どうして副社長の彼に、娘が結婚相手を紹介してくれ、なんて頼んだんでしょう。







理由は、簡単でした。










「会社の跡継ぎが必要でしょ?プラス、私の花嫁姿が見せられる。一石二鳥じゃない。」





娘らしい考えです。

自分のことなんて後回しなんですから。






でも、娘には、幼馴染がいます。

素敵な、仲のいい、幼馴染が。








密かに、私が応援していた二人です。







どうしたもんか。



娘の思いを踏みにじりたくはありません。

でも、娘には幸せになって欲しい。




「あなたは、どう思う?」

「私ですか?」

「大体、あなたが紹介したんじゃない。」

「そうですけど…娘さんのお願いでしたから」

「まあ、そうね」

「紹介した人は、私もよく知っていますが、本当に真面目で誠実なやつです。心配なさらなくて大丈夫かと…」

「娘も言っていたわ、幸せだとかなんとか言って。」

「でしたら…」

「でもね〜」





望まない結婚。



決して、私の人生も幸せじゃなかったとは言わない。



夫は私を大切にしてくれたし、素敵な娘にも恵まれたのだから。











____それでも初恋の人は、思い出すものよ。

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