お行儀悪く椅子に反対向きに座った男子生徒が、後ろの席を見ながら言う。私は、「このセリフ何回目だろ」と「まじでこいつなんでいちいち絵になるんだろ」と思う。しかし、それを考えている暇は多忙は女子高生である私にはないことにものの数秒で気付き、それから完全に聞き流すモードに入った。
なぜ、長身でスタイル抜群、声も顔もいい私の幼馴染・黒田竜平がモテない(乃至告ってもフラれる)のか。大勢の人は疑問に思うところだろう。
だがしかし、幼馴染である私にはそれはなんら不思議ではない。
女の子が遠慮するレベルの綺麗すぎる容姿と、あとはちゃっかり収まってしまっている私の幼馴染の女子枠のせいだ。
……とは、本人を目の前にして言えない。
仕方なく私は一息ふぅ、と吐くと、胡乱な目を竜平に向けながら一応答えてあげる。……できるだけ分厚いオブラートに包んで。あと前者は私が竜平をほめちぎらなくてはいけないので却下。
しばしの沈黙。それが、初めてその事実に気づいた驚きによるものなのか、それともその幼馴染当人から指摘されたことへの気まずさによるものなのか。私は測りかねたが、その沈黙が良くないものであることは予想できた。
なんなら、私だっていちいち竜平のカノジョとしてみられるのも、ごめんこうむりたいところだったのだ。
ただ、特に考えずに言った私のセリフは迂闊だったようで。みるみるうちに竜平の表情が曇っていく。そして。
そう、息遣いも聞こえてしまうんじゃないかと思うくらいの距離で囁かれた。低く、甘く。
……すっかり、変声期を経て大人の男のものになった竜平の声。そこに、前までの可愛らしさも、愛らしさも、少しも含まれていない。代わりに、女を惑わす狂気的で暴力的な蜜が、そこにはあった。
そのままだと私自身も蜜に集る蝶となってしまいそうで、私は無理矢理に竜平と物理的な距離を取った。それにしても、だ。
「お前さ、ほんとに鈍感すぎな?」
今の文脈でどこをどう解釈すれば私が鈍感だという結論に至るのか、訳が分からない。その理由が知りたくて、ある意味縋るような目をして竜平を見れば。
その、長くて白くて細い指が、私の顎を掬い取ろうとしているところだった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。