その日は、突然やって来た。
その日も、俺は陽葵の見舞いに病院へ行っていて、暫く談笑していた。
1時間がすぎたあたりだろうか。
にわかにざわざわとした空気が廊下に流れているのを感じた。
ベッドから下りる陽葵を待っていた時、廊下を走ってくる足音が聞こえた。
その足音は陽葵の病室の前で立ち止まる。
聴力が急激に失われていくのが分かった。
頭も真っ白になる。
何があったのかは分からないけど嫌な予感がする。
小走りになって駆け出す。
陽葵は俺の少し後ろをぎこちなく走って追いかけてきた。
少し遅れて病室についた陽葵が俺の脇をすり抜けてばあちゃんに縋り付く。
ばあちゃんの目は固く閉じていて、もう死んでしまっているように見えた。
でも、微かに上下する身体がそれを否定している。
俺は真っ白になった頭を無理やり動かして母さんに電話をかけた。
分かってる。
分かってるけど口が動かない。
しばらく無言で母さんの声を聞いていると、後ろから手が伸びてきた。
電話の向こうの母さんが息を呑んだのが分かった。
それから慌てた声で陽葵にお礼を言って、電話が切れる。
弱々しい言葉が口から漏れる。
陽葵は何も言わずに隣に腰を下ろした。
暫く、2人とも口を開かなかった。
ばあちゃんの病室では変わらず何人かの医師と看護師がよく分からない道具を使ってばあちゃんの命を繋ぎ止めている。
「もうすぐばあちゃんが死ぬかもしれない」
頭ではそう冷静に考えているのに体は震えて止まらない。
隣の陽葵もぎゅっと両手を握りしめていた。
その時、バタバタと走ってくる足音と、母さんの声が響いた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。