第4話

3話
437
2021/08/13 15:00
がたっとバケツを置く音が響いた。
佐藤 樹
母さん……
水持ってきたよ。
ばぁちゃんとじいちゃんの墓石を綺麗にするための水。

バケツいっぱいに水を入れて持ってきたせいで手が悲鳴をあげているみたいに真っ赤になっている。
お母さん
ありがとう。
母さんが柄杓ひしゃくで水をすくって墓石にかけた。

たらーっと水が墓石の上から滑るように流れてくる。

母さんが何回か水をかけ終わると墓石にかけた水をふいてピッカピカにしてくれた。
パンッパンッ!

と墓石の前で2拍手。

そして僕と母さんは顔をうつ向けて神様に願いを伝える。
佐藤 樹
(今年も幸せに過ごせますように。)
そう10秒ほど願ってからゆっくりと顔をあげて僕と母さんは片付けを始めた。

バケツに残っている水を全部流して、墓石の近くの水面に浮いている葉っぱをゴミ袋に入れる。


そうして片付け終わった僕と母さんはお墓参りの場所から出た。
お母さん
樹、お母さん用事があるからこっちから帰るわね。
母さんは家とは反対方向に指を指した。
佐藤 樹
うん。
佐藤 樹
行ってらっしゃい。
そう言って僕は母さんに手を振る。

すると母さんはにっこりと笑って行ってしまった。

母さんが向かった方向に足跡みたいに揺れている水面。
佐藤 樹
じゃ、帰るか
そう言って僕は母さんとは反対方向に足を向けた。

が、途端に僕は足を止める。
佐藤 樹
あれ?
こっちの方って心霊スポットの……
じいちゃんとばぁちゃんの墓石がある所の横の神社。

そこにはある噂があった。


神社の敷地内。

そこには約1000年前の地震で亡くなった人達の墓が沢山あるんだって。

だけど、どの墓にも亡くなった人の名前は彫られていないの。

津波で遺体がぐちゃぐちゃになってしまったせいで名前が分からなかったんだって。

でも一つだけ名前が彫られている墓があるんだよ。

それは津波を無くそうとして飛び込んだ生贄の巫女の墓。

だけど、その巫女の墓を見つけてはいけないんだって。

見つけてしまったら……

後ろから肩をぽんっと叩かれてこう聞かれるの。


「ねぇ、私の事思い出してくれた?」

振り向いたが最後。

その子は巫女に永遠に殺され続けるらしいよ……?
根拠も無い噂。

だけど実際に地震はあったっぽいし……
佐藤 樹
ちょっと怖いんだよな。
目の前にある大きな神社の鳥居。

それが凄く禍々しく見える。

まるで地獄の入口みたいに。
佐藤 樹
お祈りするだけならきっと大丈夫だよな
名前が書いてあるお墓を見つけたらダメなだけだろ。

だったらそもそもお墓の所に入らなければいいだけ。

そう思いながら僕は神社の鳥居をくぐった。

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