第4話

80
2024/01/22 04:00
ズボラ
ズボラ
じゃあ、明日の9時頃に駅前で
(なまえ)
あなた
うん、楽しみにしてる
「ズボラくん…ですか?」
「あ、はい!えっあなたの男装のときの名前さんであってます?」
その言葉に俺は大きく首を縦にふる。

俺の目の前には百八十センチほどだろうか。

白黒のパーカーを着た大柄の男がいた。
髪は暗めの桃色に染められており、
彼の色素の薄い瞳によく似合っていた。
「じゃあ行きます?」
「そうっすね」
「行きましょうか」とニッと笑っていう姿は、
少しきつめの目元からは想像が出来ない。

そう思うくらいには優しげな笑みであった。



「ん"にゃ"あぁああ"ぁっ"っっ!!」
「ふっ…俺の勝ちだ」
頭を抱えて身悶える俺の眼の前には、2ndの文字。
そして隣に座る彼には1stの文字。
皆さんおわかりの通り。
某カーゲームでズボラくんにボロ負けした。
いや、なんでっ!?
俺結構こういうゲーム得意なんだがっ!?
確かに弟には勝てませんけれども!
「弟さんゲーム得意なんですか?」
「あれ、声出てた?」
「はい」
「まじかよ、恥ずかしっ」
というか普通にズボラくん強ないか?
これでも俺強いほうだぞ?弟がおかしいだけで。
そう思って口を尖らせていると、
ズボラくんが思い出したように言った。
「あ、レイさん」
「ん?どしたの?」
「いや、俺MENって渾名あるんで
 それで呼んでくれません?」
「え、逆にいいの?」
「はい」、と爽やかにズボラくんーMENくんは頷く。
やっぱこの子イケメンだよな、と思った。
「渾名がMENって面白いね」
「俺のLINEの名前がXmenなんですよね」
「え、曲の名前の?」
「はい」
大真面目な表情をして、彼は深く首を上下させた。
それがなんだか面白くて、思わず吹き出してしまった。
「んふっ…ふふふ、、」
「え、なんすか。怖いんですけど」
そう言って引いた目をしながら、自分の腕を擦る彼に慌てる。
「んあっ?違うよ?何も怖くないよ?」
「いや怖いですって」
「いやいやいや。ただ可愛いなぁと
 思っただけなんですけどぉ?」
へぁっ?と変な声を漏らす彼がまた面白い。
「すいません。次使ってもいいですか?」
「あ、すいません!どうぞ!」
後ろからそうこえをかけられ、慌てて言葉を返す。
「よし、次どこ行こうか?」
「あ、なら俺行きたいところあって!」
「お!どこどこ?」


「んじゃ!今日は楽しかったよ!またね!」
「はい、また!」
そう言って手を振り合い、俺とMENは別れた。
楽しかったな、また遊びたいな等と考えながら、
俺は帰路についた。
電車に乗り込み、しばらく電車に揺られ、また歩く。
少し経って家につく前に、
俺は男女兼用のお手洗いに寄った。
そこで被っていた帽子を取り、少し短めの髪を結ぶ。
来ていたリバーシブルの上着を、
ひっくり返して着れば、完璧だ。
中性的な見た目な男性の"俺"から、
どう見たって女性にしか見えない"私"に変わった。
少しだけ化粧をし直し、その場を離れた。
家について真っ先に聞こえた音は、
たった一人の弟の声であった。
「おかえり、姉ちゃん」
「ただいま、利音」
どんなに大好きな家族であっても、
友達ほど親密な仲にはなれない。
外よりも家にいるときのほうが、
辛いと感じてしまうのは、自分だけであろうか。
自分よりも深い緑色の瞳を見て、
思わず視線をそらしてしまった。
「姉ちゃん楽しかった?」
「うん。楽しかったよ」
「ゲーム仲間だっけ?」
「うん」
「俺とその人。どっちのほうが上手い?」と、私の後ろをついてきて、問うてくる。
「利音かな。でもその人もめっちゃ上手いよ!」
「えー…」
「ホントだって!僅差だもん」
小さな頃から浮かべていたこの笑み。
その歪さに一番鈍感なのは、一番近くにいた家族である。
明るく話をしながら、私はそんな"当たり前"を思った。
うる
うる
はい、終わりです
うる
うる
じゃな!

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