.
「聞こえるか小隊長! すぐさま陣形を立て直せ、生きている者は全員自分の命と銃火器を死守しろ、死んでも死ぬなよ!」
少将は銃火が閃ひらめく戦場の中で叫んだ。何人かの「サーイエッサー!」という叫び声が聞こえてきたが、途中で途切れた声もあった。誰かの悲鳴が聞こえた。苦悶の呻き声が聞こえた。断末魔が聞こえた。
砂の味と血の味が混ざる。それを吐き捨てながら、少将は閃光手榴弾のピンを歯で取り、敵の方へと投げた。銃火が止んだ一秒後にそれが爆発し、その合図と共に何人かが少将と共に戦場のど真ん中に踊り出る。
一発一発を全て敵の致命傷となる部分に当てる。およそニ十発撃った中で一発も敵の体から外さなかったのは、彼の天才的技量と血汗が滲む努力の証だ。
敵が呻きながら地面に崩れ落ちてゆく。十秒後には、その戦場に立っているのは少将と三人の部下だけであった。少将は左手から血を流しているが、その三人も似たり寄ったりで荒い息を繰り返している。
何かの違和感があった。
それは一人の人物がそこにいないことだった。
「……大佐?」
この隊唯一の女性である大佐がいなかった。
ひゅ、と自分の喉が鳴ったのが聞こえた。大佐はこの隊で少将の二番目に強い。そして今までの訓練でも、きちんと上官の命令には従う優等生だ(たまにドジをやらかして怒鳴られているが)。この場に今すぐ出てこないとは、どうにも、違和感があって。
耳鳴りがした。
「……しょ、しょぅ」
しかし、その蚊の鳴くような声を少将の耳が聞き取れたのは、いわゆる奇跡というやつなのかもしれない。
「──!」と目を瞠った少将は、すぐさまその声がした方に駆け寄って行った。ひどく心臓が早鐘を打った。全てを無視した粉塵の中を駆け抜け、そして、倒れている女性を見つけた。体つきはぱっと見細めで低身長の男と変わりないが、少将にはすぐに分かった。大佐だった。
大佐の腹から、赤黒い血が流れだしていた。
「た──大佐ッ!!」
.
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!