第19話

女の友情とスケベ心
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2019/02/08 09:00



初夏の日差しが照りつける学校の中庭。
そこにさっちょんを呼び出した。

さっちょんの表情は強張っていて、目も合わせてくれない。

思わず泣きそうになって唇を噛み締め、握った手には汗が滲む。

意を決しすぅっと大きく息を吸い込んだ。
心美
心美
あのっ
紗季
紗季
ごめんなさい!!

突然さっちょんは頭を下げた。

吸いこんだ息は行き場をなくし、ひゅうっと鼻から抜ける。
紗季
紗季
全部ヒカルくんから聞いたの
私、てっきり心美とヒカルくんが
付き合ってるんだと思って、それで…
心美
心美
あ、あれ
紗季
紗季
盛大に勘違いしたあげく心美のこと
無視して……
心美
心美
え、待って。それだけ?
紗季
紗季
もちろん、謝っても許されないこと
だって思ってる
心美
心美
違う違う! ヒカル会長、他に何か
言ってなかった?
紗季
紗季
……え?ヒカルくんは全部誤解だって、
すべて僕の責任だって謝ってくれたよ
心美
心美
(会長……。じゃあスケベのことは
黙っててくれたの?)
紗季
紗季
本当に、ごめんなさい!

正直、スケベがバレてないことにホッとした。

でも目の前で真剣に謝ってくれているさっちょんに
胸がツキンと痛む。
心美
心美
(そもそも全部、スケベを隠してる私のせいなのに)

脳内でスケベ心たちが緊急会議を始める。
スケベ心
スケベ心
スケベだって正直に言ったほうがいい!
彼女に謝らせて、心美は何をしてるんだ
スケべ心
スケべ心
いや、もし言って嫌われたらもう心美は立ち直れないぞ


小学生の頃の“すけべぇ”事件が脳内会議室のスクリーンに写しだされる。

教室中が敵に回った忌まわしい記憶。
心美
心美
(悲しいよ。もうあんな思いしたく
ない。でも、でもこのままじゃ…)

脳内会議に夢中な私はすっかりさっちょんを
置き去りにしてしまっていた。





紗季
紗季
もう、友達には戻れないよね

目を潤ませ、さっちょんは立ち去ろうと背を向けた。
その背はいつもの強気ギャルとは程遠い。


そして徐々に遠ざかっていくさっちょんの背。




そうだ。




言わなきゃ。




ちゃんと言わなきゃ!!


心美
心美
さっちょん!! 私、スケベなの!!!

その声は中庭にこだました。

中庭にいる生徒達が何事だと一斉にこちらを見る。


振り返ったさっちょんは慌てて私の手を取り、女子トイレへと駆け込んだ。

そしてなぜかプルプルと震えだし、吹き出して笑う。
紗季
紗季
あはは!涙出るっ。あんな場所で言うなんて! はぁ、でもやっと言ってくれた
心美
心美
やっと?
紗季
紗季
だって心美いつも体育の時、男子見て
ニヤニヤしてんだもん
心美
心美
え?! スケベ、バレてたの?!
紗季
紗季
薄々ね。隠し事嫌いって言ってカマかけたのに、いつも必死に隠すから
心美
心美
……黙ってて、ごめん。あれ、でも私のこと変態とか、キモいって思わないの?
紗季
紗季
は?ナメてんの? 友達にそんな酷いこと思うわけ無いじゃん
心美
心美
さっっちょーーーん!!!

感極まってさっちょんの胸に飛び込んだらキモいって引き剥がされた……。


あれ、話が違う。
紗季
紗季
なに本気にしてんのバカ心美!

そう言って笑うさっちょん。
私たちを隔てる壁は、もうどこにもなかった。

今後は、隠し事ナシを約束して私はさっちょんに全てをさらけ出した。




小学生の頃のトラウマのこと、

ヒカル会長とのこと、

遊佐くんのカラダがとんでもなくスケベなこと。


話を聞くさっちょんの表情はコロコロ変わって面白かった。
紗季
紗季
はあ?! あの土手で一緒に走ってたイケメンって、遊佐ーーー?!
今日イチのびっくり顔、いただきました。
紗季
紗季
へぇ~
で、さっきから気になってたんだけど
その遊佐への気持ちって、スケべ?
それとも恋?
心美
心美
(え?! なにそれ、そんなこと考えたことも無かった……)

スケベ心と恋心を並べて考えるとはさすが!
さっちょんは違いの分かる女だ。

なら私のこの気持ちは……。


急なさっちょんの問いに、答えられなかった。


小学生の頃、好きだったりっくんへの気持ちはただのスケベ心だったしーー。


“スケベ心”と“恋心”

一体何が違うんだろう……。

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