私はぐるりと辺りを見回す。
特に変わった様子はなかった。
ま、当たり前か。
チラリと壁にかかっている時計を見ると18時30分をさしていた。
その時だった。
声が、した。
私の背後で。
音もなく、私の背後で、声だけが響いていた。
この世界に来てから五本指に入るくらいには驚いたと思う。
ばっと後ろを振り返る。
そこには予想外の人がいた。
いや、人というか・・・・
真人はわざとらしく甘い声でそう言った。
机の上に座り、足をぷらぷらと揺らしている。
一方の私は混乱していた、ものすごく。
なんでこんなところに真人がいるの?
真人もこの事件となにかしら関係あるの?
よっ、という声を出しながら真人は机からぴょんと床に着地する。
そしてゆっくりとこちらに向かって歩いてきた。
真人との顔の距離はほんの数センチだと思う。
思いの外綺麗な瞳に思わず見惚れてしまった。
本当に綺麗な目してるよな・・・・呪いだけど。
私はその瞳に吸い込まれないように目線を外し、少し距離をとった。
私の回答に満足したのか真人はニコニコと笑う。
私がいるってわかってたから?
つまり・・・・
悪びれもなく真人はそういってもう一度笑う。
・・・・本当に調子狂うなぁ、この真人。
せめてめちゃくちゃ悪人であれよ、本当に。
いや人殺してる時点で悪人か。
悪人っていうか、悪・・・・なんだろう。
まぁいいや。
変なところに思考が飛んでいったがなんとか元のレールに戻る。
真人の言葉に私は固まった。
その反応を見て真人は少し慌てたように付け足した。
そういうことじゃない。
浮気していたことがバレた恋人が言い訳するみたいな雰囲気もやめて欲しい。
突っ込む気力すら薄れてしまう。
夏油って言った、よな。
反応からして本当に知らなさそうだった。
そうですか、とだけなんとか言葉を返した。
真人はそういうとポケットから紙切れを取り出して私に渡してきた。
私は渡された紙切れを広げる。
『明後日、君に会いに行くよ。君に話したいことがたくさんあるんだ。楽しみにしていてね』
・・・・は?
私は返事をしながら紙切れを裏返してみる。
予想通りなにも書いていなかった。
この文字だけか・・・・
私の居場所がわかるってことは向こうからきてくれるってことだよね。
私は紙切れをピラピラと振りながら真人にそう言った。
自分で言っておいて確かにお礼を言うのは少し違う気がしてきた。
真人はポカンとした表情になった。
そしてふっと笑う。
どこにでもいそうな、人間らしい表情だった。
そういって真人は私にもう一度笑いかけた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。