何の変哲もない、極々普通の日。配信もないし、メンバー会議もない。今日こそはゆっくり休めるだろう。
そう当たりをつけて、らんは仕事で疲れた体を引きずって家にたどり着く。しかし、玄関の前まで来ると、誰かはわからないが小さな人影がうずくまっているのが見えた。怪しく思いながらもゆっくりと近づくと、なんと人影の正体は小学生ぐらいの男の子だ。外ハネ気味な紫暗の髪。メッシュだろうか、よく見れば毛先だけ白い。
らんの知り合いの内、こんな独特な髪色の人間は1人だけだ。同歌い手グループの紫担当の裏リーダー。しかし、いくら彼の身長が低かろうと、こんなに小さいはずがない。
このままでは埒が明かないと思ってらんが声をかけると、少年は勢いよく顔を上げた。その勢いにも驚いたが、それよりもその容姿に思わず目を見開く。
全体的に丸みを帯びているものの、切れ長の金色の瞳に凛々しい印象を与える顔立ちは正しくいるまそのものだ。だが、何度も言うがらんの知るいるまとは成人男性。こんな小学生低学年程の子どもではない。
子どもは必死に首を縦に振っては口をパクパクとさせて何かを訴えようとしている。だが、声が出ないのか、その口からは音の振動が乗っていない空気だけが溢れ出ている。
そう言って子どもは力なく項垂れた。慌てて抱き留めて軽く揺すると、目線だけはなんとか合うものの、しゃべれるほど気力がないようだ。
慌てて携帯を取り出して、病院を検索しようとする。だが、その携帯を持つ手に小さな手が添えられた。
そう言って子どもは気を失ってしまった。
らんは困惑しながらも、子どもを抱き上げる。そして、とりあえず家に入れて面倒を見ることにした。話はそれからだ。
チラッと抱き上げた子どもを確認しつつ、らんは家が一番近い“彼”に連絡を取った。事情を話せば電話越しでも伝わるほど、驚いているのがわかった。すぐに向かうと言って切られたが、一安心といったところか。
子どもをベッドに寝かせたらんは、重々しくため息をつくと時計に目を向ける。既に時計は10時を過ぎていたが、らんが休めるのは当分先になりそうだ。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。