第29話

Page;27:スピンオフ01『僕はいつかこの恋を後悔する』
822
2025/03/07 09:00 更新
Ü
てひょな!




入学式。



きょろきょろとあたりを見回してあなたを探す僕を
その柔らかい声が呼んだ。

後ろを振り向くといつもの笑顔。



心が幸せに満ちた。



とめどなく溢れる気持ちを誤魔化すようにぱちぱちと瞬きをして、その足音が隣に並ぶのを待った。


Ü
テヒョナ、ブレザー似合うね
Taehyun;
Taehyun;
ほんと?




あなたも似合ってるよ。



言いたかったのに、言えなかった。



隣を歩くあなたが頬を膨らませてこちらを見上げる。








…どきん。




Ü
もー…私は?
Taehyun;
Taehyun;
…かわいいよ
Ü
ふふん、でしょ?
Taehyun;
Taehyun;
でしょ、じゃないよ謙遜して笑
Ü
ええ、だってテヒョナの褒め言葉なんて貴重じゃん
Ü
受け止めとかないと!笑



そんなに僕はあなたを褒めてなかったっけ?



そう、ぐるぐると考えてみたけれど、
どうやら心の中で零しすぎたらしい。

甘え上手で褒められ上手な彼女のことだ、
僕が褒めなくてもいろんな人が褒めてくれるだろうに。



あなたがこちらを見上げて楽しそうに笑うだけで、
胸が苦しくなる。



…好き、だなあ。



それが、僕が思うあなたへの1番の褒め言葉だった。


Ü
あっ、ねえテヒョナ!
Taehyun;
Taehyun;
ん?…あ
Ü
同じクラス!
Taehyun;
Taehyun;
同じクラスだ
Ü
また1年よろしくね
Taehyun;
Taehyun;
こちらこそ



あなたの手が肩からストラップで吊るされたバッグにのびる。

そこからあの日の一眼レフを取り出して、僕を撮ってみせた。



気まぐれでもなんでもいいのだ。

振り回されるのすら心地いい。



ただの被写体だって自分に言い聞かせようとしたけど無理だった。






とんでもないな、と笑ってみせた僕に、あなたは気づかなかった。


Taehyun;
Taehyun;
今までどんな写真撮ってたの?
Ü
え?…うーん、普遍的だよ?
Ü
景色撮ったり、友達撮ったり…
Taehyun;
Taehyun;
見せてよ
Ü
…うん、いいけど…



次々と映し出される写真。

陽の光が射す公園、川辺と猫、
時々彼女の友達らしき人たちの写真。

友達が撮ったのか、あなたの写真もあった。



同じクラスの女友達しか見られない表情もあって、
だんだんと頬が緩んでいく。

そして、日付が僕と出会ったあの日を示す。


Ü
…あ、テヒョナ
Taehyun;
Taehyun;
うん、僕だ
Ü
…いい笑顔だねえ
Taehyun;
Taehyun;
カメラマンの腕がいいからじゃない?
Ü
んふ、そうかも
Taehyun;
Taehyun;
…?
Taehyun;
Taehyun;
もっと前の写真、ないの?
Ü
…いや、あるんだけど…
Taehyun;
Taehyun;
…貸して?
Ü
あっ…




前へ、と書かれたボタンを押すと、
中性的な顔の男の子がこちらを見て笑っていた。





学ランは紛れもなくあの中学のものだ。

静かに、ボタンを押す。







愛おしげにカメラの奥を覗くその人。



合間に挟まれた写真の中のあなたも、
同じように、僕には向けたことのない笑顔で笑っていた。


Ü
…ちょ、テヒョナ、もういいでしょ
Taehyun;
Taehyun;
え、あ、うん…
Ü
…写真、消し忘れてただけだから


あなたが僕の手からカメラを受け取り、
電源を切ってそのままバッグへ入れる。





察しのいい僕が元彼だ、と判断するのに時間はいらなかった。



だって、あの2人の笑顔は好きな人へ向けられる笑顔だ。

…そして、今も…。


Ü
テヒョナ、入学式そろそろ始まるって!



3度目の偶然は、正直いい思い出ではなかった。

プリ小説オーディオドラマ