入学式。
きょろきょろとあたりを見回してあなたを探す僕を
その柔らかい声が呼んだ。
後ろを振り向くといつもの笑顔。
心が幸せに満ちた。
とめどなく溢れる気持ちを誤魔化すようにぱちぱちと瞬きをして、その足音が隣に並ぶのを待った。
あなたも似合ってるよ。
言いたかったのに、言えなかった。
隣を歩くあなたが頬を膨らませてこちらを見上げる。
…どきん。
そんなに僕はあなたを褒めてなかったっけ?
そう、ぐるぐると考えてみたけれど、
どうやら心の中で零しすぎたらしい。
甘え上手で褒められ上手な彼女のことだ、
僕が褒めなくてもいろんな人が褒めてくれるだろうに。
あなたがこちらを見上げて楽しそうに笑うだけで、
胸が苦しくなる。
…好き、だなあ。
それが、僕が思うあなたへの1番の褒め言葉だった。
あなたの手が肩からストラップで吊るされたバッグにのびる。
そこからあの日の一眼レフを取り出して、僕を撮ってみせた。
気まぐれでもなんでもいいのだ。
振り回されるのすら心地いい。
ただの被写体だって自分に言い聞かせようとしたけど無理だった。
とんでもないな、と笑ってみせた僕に、あなたは気づかなかった。
次々と映し出される写真。
陽の光が射す公園、川辺と猫、
時々彼女の友達らしき人たちの写真。
友達が撮ったのか、あなたの写真もあった。
同じクラスの女友達しか見られない表情もあって、
だんだんと頬が緩んでいく。
そして、日付が僕と出会ったあの日を示す。
前へ、と書かれたボタンを押すと、
中性的な顔の男の子がこちらを見て笑っていた。
学ランは紛れもなくあの中学のものだ。
静かに、ボタンを押す。
愛おしげにカメラの奥を覗くその人。
合間に挟まれた写真の中のあなたも、
同じように、僕には向けたことのない笑顔で笑っていた。
あなたが僕の手からカメラを受け取り、
電源を切ってそのままバッグへ入れる。
察しのいい僕が元彼だ、と判断するのに時間はいらなかった。
だって、あの2人の笑顔は好きな人へ向けられる笑顔だ。
…そして、今も…。
3度目の偶然は、正直いい思い出ではなかった。













編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。