暖かい部屋の中、1人の少年は1つため息をついた。
日曜の朝、水無瀬 奏真は1週間ぶりの休みを満喫するために早起きをした。
だがいざリモコンを握ると、コンビニ強盗が起きただの有名人のスキャンダルだの、、、
読者の為に割愛するが、本当にそんなニュースばっかりだ。
そうやって奏真がこたつに潜り込むと、こんこんと玄関の扉を叩く音がした。
しょうがないな。一度入ると中々戻れないこたつとおさらばしながら、冷たい床を踏み締める。
そんなことを考えながら、奏真は恐る恐る玄関の扉を開けた。
するとそこには、、、
“彼女”がいた。
“彼女”はにこりと微笑むと、美しい髪を揺らしながら当たり前のように部屋へと入ってきた。
軽い冗談を挟ませながら、“彼女”をリビングへと案内する。
いつも通りふざける“彼女”は、1年前と全く変わっていなかった。
しんしんと雪が降り積もる中、女性の黄色い声が聞こえる。
奏真はめんどくさい気持ちを抑えながら、そそくさとその場を後にしようとした。
だが、その様子をファンが許すわけが無い。
それどころか、逆に燃えてくるのが夢見る乙女の常識だ。
ほら、寒さのせいか頬を赤らめて話しかけてきた。
奏真が少し喋っただけで、女性はきゃ〜と高い声を上げた。
そして、もう逃すまいと奏真の手を強く握ってくる。
出た、昔からファンだったんですよアピール。
今日少なくとも11人は同じことを言っていた奏真に、その言葉が通じるわけがない。
奏真は炎上覚悟で言葉を口にしようとした。
その瞬間、、、、
優しい声がその場に響き渡った。
声の主の方へ視線を動かすと、美しい少女が立っているのが目に映る。
女性は何かやましいことでもあったのか、そのまま何処かへと逃げ出してしまった。
その様子を見て驚いていた奏真を横目に、少女は1つ呟く。
▷杯 楓 編
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!