第7話

アンドロイドの恋愛
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2021/06/23 04:00
夢咲 蝶子
夢咲 蝶子
いや、ヨウはそもそもまだ感情が育ってないし……。
恋愛が何かもよく分かってないと思う。
それに、栄一は『アンドロイドが恋愛するなんてくだらない』って言ってたじゃない
鳳 栄一
鳳 栄一
あ、まあ……そうなんだけど。
それは昔から蝶子と同じ意見だし

働くアンドロイドが世に出てきた背景は、少子化の影響で生産年齢人口がめっきり減ったことにある。


統計によると、現代の働く人々の10人に4人は、アンドロイドなのだ。


特に、近年のアンドロイドは人間並みに感情が豊かで、人間の理想を詰め込まれて作られているため、全員美男美女でスタイル抜群。


仕事をきちんとこなし、法を犯すことさえしなければ、アンドロイドは自由に暮らすことができる。


それにより、アンドロイド同士、もしくはアンドロイドと人間が恋愛関係に発展するようになった。


アンドロイドとの恋愛は禁止されてないが、彼らは国の管理物である以上、結婚はできないし、一生一緒にいられる保証もない。


刹那的な恋愛になることは間違いなく、それらを理解した上で交際するカップルがほとんどだ。


蝶子と栄一は、そういったアンドロイドと人間の恋愛について、あまり良く思っていなかった。


――はずなのだが……。
夢咲 蝶子
夢咲 蝶子
もしかして……。
ハナさんのこと、好きなの?
鳳 栄一
鳳 栄一
……仕方ないだろ
夢咲 蝶子
夢咲 蝶子
だっ……

栄一を咎めそうになった蝶子は、ぐっと言葉を飲み込んだ。


人の恋心まで真っ向から否定する権利は、蝶子にはない。


ただ、報われない恋になることを誰よりも分かっているはずの栄一がアンドロイドに恋をしていたことに、ひどく驚いていた。



***



数時間の滞在の後、蝶子とヨウは自分たちの屋敷に帰宅した。
ヨウ
ヨウ
蝶子さん、私、掃除をしてみたいです。
あれなら、すぐできます
夢咲 蝶子
夢咲 蝶子
えっ……ああ、待って

蝶子は栄一の言ったことがまだ忘れられず、動揺していたが、ヨウの言葉で我に返った。


ヨウはハナから家事を一通り教わって、早速実践してみたいらしい。


その意欲は蝶子も嬉しかったが、考えをまとめたい蝶子はすぐに頷けなかった。
夢咲 蝶子
夢咲 蝶子
私は、自分のことも家のことも自分でできるから。
ヨウも、まずは自分を一番に考えて
ヨウ
ヨウ
ですが、考えてもどうしたらいいか分からないです。
私は、蝶子さんの役に立ちたい。
また、捨てられたくない……
夢咲 蝶子
夢咲 蝶子
……あっ、ごめん!
捨てるなんてしないよ。
気持ちだけ、受け取っておくね

まだ屋敷に来て2日目なのに、ヨウには僅かな感情が芽生えてきているのではないか。


博士が独自の研究で残したアンドロイドだと思うと、また世に出られるまで世話をやいてやりたい。


蝶子はそう思い、ヨウの気が済むまで、ここで面倒を見ようと決めた。
夢咲 蝶子
夢咲 蝶子
ヨウの場合、まずはたくさん学ばないといけない。
人間だって、社会に出る前に学ぶんだから。
焦ってすぐに働こうとしないで、ひとつひとつ覚えていこう?
ヨウ
ヨウ
……蝶子さんが言うなら、そうします
夢咲 蝶子
夢咲 蝶子
うん

素直に頷くヨウを見て、蝶子は栄一の気持ちが少しだけ分かる気がした。



***



翌日から、蝶子は小中学校時代のテキストや問題集をヨウに渡し、どのくらいの知識があるのか調べてみることにした。


夕方、蝶子の学習机にヨウを座らせると、ヨウは遠慮がちに蝶子を見上げる。
ヨウ
ヨウ
蝶子さん自身の勉強は……?
夢咲 蝶子
夢咲 蝶子
私、高校の履修自体は随分前に終わってるの。
日本には飛び級制度がまだないだけ。
学校は単位のためだけに行ってる
ヨウ
ヨウ
そうなんですか
夢咲 蝶子
夢咲 蝶子
私は学校の勉強を早く終わらせて、情報技術の勉強をしたかったから。
でも、今はヨウの特訓が先!
ヨウ
ヨウ
はい、頑張ります

数日かけて、蝶子はヨウに色々とテストを課してみた。


どうやら、小学校中学年レベルの語彙や知識、計算力はあるらしい。


小学五年生の問題からつまずきが見られたので、国語と算数を中心に学ばせていく。
夢咲 蝶子
夢咲 蝶子
この問題、答えは合ってるんだけど、どうやって計算したの?
ヨウ
ヨウ
暗算で
夢咲 蝶子
夢咲 蝶子
えっ、暗算早くなったね!
でも、それだとヨウがどんな計算をしたのか分からないから、面倒だけどここに式を書いて
ヨウ
ヨウ
はい
夢咲 蝶子
夢咲 蝶子
算数とか数学は、単に計算力を鍛えるんじゃなくて、正解を導くための思考力も伸ばしてくれるの。
答えを求めるだけのものじゃないよ
ヨウ
ヨウ
分かりました

蝶子はヨウに問題を解かせている間に、本や映像資料データを屋敷中からかき集めた。


ドキュメンタリー映像から、博士が好きだった映画、父が好きなドラマシリーズなどもある。


それらを薄型の映像端末に入れ、蝶子は思いつきで子ども向けアニメもいくつか混ぜておいた。


ヨウは蝶子が学校に行っている間、簡単な掃除をして、本を読み、問題を解いて、意味の分かるものから映像を見て過ごした。


――そんな生活を続けること、約2週間後。


ヨウに、明らかな変化が訪れる。


【第8話へ続く】

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