働くアンドロイドが世に出てきた背景は、少子化の影響で生産年齢人口がめっきり減ったことにある。
統計によると、現代の働く人々の10人に4人は、アンドロイドなのだ。
特に、近年のアンドロイドは人間並みに感情が豊かで、人間の理想を詰め込まれて作られているため、全員美男美女でスタイル抜群。
仕事をきちんとこなし、法を犯すことさえしなければ、アンドロイドは自由に暮らすことができる。
それにより、アンドロイド同士、もしくはアンドロイドと人間が恋愛関係に発展するようになった。
アンドロイドとの恋愛は禁止されてないが、彼らは国の管理物である以上、結婚はできないし、一生一緒にいられる保証もない。
刹那的な恋愛になることは間違いなく、それらを理解した上で交際するカップルがほとんどだ。
蝶子と栄一は、そういったアンドロイドと人間の恋愛について、あまり良く思っていなかった。
――はずなのだが……。
栄一を咎めそうになった蝶子は、ぐっと言葉を飲み込んだ。
人の恋心まで真っ向から否定する権利は、蝶子にはない。
ただ、報われない恋になることを誰よりも分かっているはずの栄一がアンドロイドに恋をしていたことに、ひどく驚いていた。
***
数時間の滞在の後、蝶子とヨウは自分たちの屋敷に帰宅した。
蝶子は栄一の言ったことがまだ忘れられず、動揺していたが、ヨウの言葉で我に返った。
ヨウはハナから家事を一通り教わって、早速実践してみたいらしい。
その意欲は蝶子も嬉しかったが、考えをまとめたい蝶子はすぐに頷けなかった。
まだ屋敷に来て2日目なのに、ヨウには僅かな感情が芽生えてきているのではないか。
博士が独自の研究で残したアンドロイドだと思うと、また世に出られるまで世話をやいてやりたい。
蝶子はそう思い、ヨウの気が済むまで、ここで面倒を見ようと決めた。
素直に頷くヨウを見て、蝶子は栄一の気持ちが少しだけ分かる気がした。
***
翌日から、蝶子は小中学校時代のテキストや問題集をヨウに渡し、どのくらいの知識があるのか調べてみることにした。
夕方、蝶子の学習机にヨウを座らせると、ヨウは遠慮がちに蝶子を見上げる。
数日かけて、蝶子はヨウに色々とテストを課してみた。
どうやら、小学校中学年レベルの語彙や知識、計算力はあるらしい。
小学五年生の問題からつまずきが見られたので、国語と算数を中心に学ばせていく。
蝶子はヨウに問題を解かせている間に、本や映像資料データを屋敷中からかき集めた。
ドキュメンタリー映像から、博士が好きだった映画、父が好きなドラマシリーズなどもある。
それらを薄型の映像端末に入れ、蝶子は思いつきで子ども向けアニメもいくつか混ぜておいた。
ヨウは蝶子が学校に行っている間、簡単な掃除をして、本を読み、問題を解いて、意味の分かるものから映像を見て過ごした。
――そんな生活を続けること、約2週間後。
ヨウに、明らかな変化が訪れる。
【第8話へ続く】
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。