神山side
昨日のサプライズを今でも思い出す。
朝早くから俺らはバタバタやった。
急に俺の携帯が鳴って何かと思えば
今すぐ事務所に来いって。
その知らせは直ぐにメンバーにも知れ渡り
グループメールでは珍しくしげが1番乗りに
俺らに聞いてきた。
「お前ら何かしたん?」って。
でも俺も含めた全員が心当たりなくて
全員が不安のまま事務所に向かった。
マネージャーからの連絡や送り迎えも無く
自分の車で向かうことになった今回は
途中で流星も乗せて一緒に向かった。
2人で一緒に事務所なんて滅多に来ないから
余計俺らは無口になってしまった。
気になって後部座席に座っている流星を見たら
窓の外を見て真剣な顔で何かを考えてた。
流星が思ってしまうのも分かる。
突然事務所からいきなり来いって言われたら
そりゃそっちの方向を考えてしまうに違いない。
でも俺らは色んな所で言っている。
俺ら何があっても「7人です。」って。
だからそんなことは無いと思ってる。
色々な思いを抱いたまま
あっという間に事務所に着いてしまった。
窓を見るとそこには淳太と照史と濵ちゃんが居た。
車を停めて外に出れば俺らに気づいた3人が
手を振ってくれて俺らも駆け寄った。
濵ちゃんが携帯を見せてくれた。
俺らも寒い外から逃げるように事務所の中に入った。
何度来てもなれないこの事務所。
長い長い廊下と地味に狭いエレベーターに乗って
着いたらすぐそこの社長室。
淳太がドアをノックして中に入れば
緊張しているしげと穏やかそうな顔をしている
社長がいた。
俺らはしげがいる方に移動して一緒に立つと
社長がゆっくり口を開いた。
社長
「今日の朝マネージャーさんから電話がありました。」
社長
「はい。…母親が倒れてしまい看病を任されたと。」
社長
「うん。あなた達のマネージャーはつい先程退職した。」
社長
「…その事なんだけどね?
今日、丁度入った人がいるの。
…その人で良ければいいんだけど…。」
社長
「…うん。大丈夫?」
皆も濵ちゃんの意見に賛成して
新しいマネージャーを受け入れることにした。
社長
「…ありがとう。でも…」
社長
「……無理はしないでね。」
それはどういう事なのか聞こうとしたら
社長室の扉がノックされて
質問が出来なかった。
社長
「来たかな。……入って。」
“失礼します”
元気な声で答えながら中に入ってきた男性に
俺らは言葉が出なかった。
社長
「…うん。自己紹介、しよっか。」
“はい。”
彼は社長の隣に並んで俺らの前に立って
口を開き自己紹介をした。
でも俺らは多分驚きの方が勝ってたと思う。
こんなことってあるん?
身長も多分変わらなくて
声の高さも同じくらい
髪型とかそのまんま
顔も瓜二つ
そんな彼が俺らの新しいマネージャーになった。
こんな、クリスマスプレゼント
俺はちょっと嬉しかったけどな。
“小瀧望と申します。”
新しいマネージャーはそう言った。
名刺も貰って皆は漢字も全く一緒なことに
驚いていた。
社長が俺らに「無理はしないでね」と
言ったことがようやく分かった。
重ねないようにしてね、そう言われてるようやった。
俺は彼の前に行って深く頭を下げた。
また一緒に歩いて行こう。
俺の目の前にいる「小瀧望」は
俺らの大好きな「小瀧望」とは違えど
生まれ変わりとしてここに来てくれたのなら
俺は歓迎するから。
俺がまた「のんちゃん」って言ったら
また可愛く「何ー!」って言って欲しい。
まだ皆は受け入れられないんやろう。
そりゃそうや。
全てが一致する彼を比べたり重ねたりするに
違いない。
そしてもしかしたら…
俺らは彼を傷つけてしまうかもしれない。
比べた結果やっぱり俺らの大好きな「小瀧望」の方が
ってなってしまうかもしれない。
でもそうならないように俺らが変わるんや。
俺の隣にメンバーが立って目の前にいる彼に
1人ずつ自己紹介をしていった。
でも1人だけは隣には来なかった。
涙を流した流星は社長室にあるソファに座った。
照史が一番最初に流星の方に行き背中を摩った。
「ツインタワー」
Jrの頃から人気が高かった2人はシンメになって
いつも隣にいた。
だからこそ流星は込み上げるものがある。
目の前にいるのんちゃんは
流星とは初対面だから思い出とか何もない。
でも…
パパっと荷物を持って1人だけ颯爽に帰った流星。
俺らは誰も止めることが出来なかった。
あれから俺らもお開きになって
新マネージャーののんちゃんも仕事に戻った。
あの後も流星にメールは入れたけれど
返信は無かった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。