ことはちゃんの大声で、演奏が中断される。
ことはちゃんは、相変らず怒ってばかりいる。
りっちゃんは、ことはちゃんにそんなことを言われても、いつもの笑顔で返事をしている。
ことはちゃんは、ずっと怒っている。
なんでそんなに怒るのだろうか。
私がまだまだ上手じゃないのは分かる。
だから私がたくさん怒られるのは当たり前だ。
でも、りっちゃんは私よりも全然上手だし、ミスしてるとは思えない。
ことはちゃんのその一言で、この何週間かで溜まりに溜まっていた何かが破裂した。
ことはちゃんの言い分は分かる。
分かるからこそとても悔しくて、悲しくなった。
何も言えない。
ここからいなくなったって、なんの解決にもならないのはわかっている。
でも、これ以上ことはちゃんの言葉を聞きたくなかった。
スタジオの重たいドアを開く。
そう言い残して、私はスタジオを出た。
とっくに梅雨はあけたはずなのに、外は雨が降っていた。
どんよりとした灰色の雲は、鏡みたいに私の胸の中を写していた。
気づくと私は、傘もささずに自分の家の方向へ走っていた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。