「……すいません。失礼でしたよね」
久保田さんを見つつ、焦りながら声を発した。
「いいえ、そんなことないですよ。気になりますよね、年齢って」
久保田さんは微笑みながら、優しく私に話しかけてくれた。
優しいな、本当は失礼なことなのに。
「…そうですね。気になりますね」
そう言って、なぜか上を見上げてから私に話した。
「…僕、こう見えて、26歳です」
上を見上げてから、私の顔を見た。
「…そうなんですね」
私は一言しか久保田さんに言えなかった。だって、年齢を聞いても、素敵な人だって思ってしまった。
看護師の久保田さんではなく、男性の久保田さんとして。
この気持ちは、ただの陽性転移なのに。
なんでその些細なことで、ドキドキしてるの。
「…花野さん。どうしました?」
久保田さんは心配そうに私を見てきた。
そんな顔をしないでよ。
「…大丈夫です。質問に答えてくれてもらって嬉しいです」
私は久保田さんに言ってから、笑顔で答えた。
「そうですか。それなら、良かったです。では」
久保田さんは片づけを終えて、ペコッと頭を下げて、出ていった。
ため息をつきながら、私は今の時刻を確認した。7時五十分。
八時から朝食だから。あともうちょっとで、准看護師の方が持ってくるはず。
やっぱり、これは陽性転移なのかな。
優しくされたからって、好きになったわけじゃない。
私が疲れているかもしれないし、気のせい、気のせい。
そう心の中で自分に言い聞かせていたら、准看護師の方が食事を持ってきてくれた。
ご飯を食べて、テレビを見ていた時、担当医の木本先生が来た。
木本先生は、外科の先生で唯一の女の先生だ。前、他の看護師さんが私に言ってたな。木本先生の後ろには、研修生の男性二名がいた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。