同じ上層部役員の上川くんに呼び出されて、
小さな会議室にいる。
仕事中に呼び出されたのにも関わらず、
なぜ呼び出されたのかなかなか口を開かない。
故に、私は不機嫌を隠さずに、
窓の外を見ながら問うた。
またか。
と、思った。
指を刺されながら言われたそれは、
私の左手の薬指にあるものだ。
結婚指輪である。
可愛い可愛い叶くんと結婚してから、
既に、3ヶ月が経った。
なのだが。
私は苗字も住所も変わらなかったため、
特に職場では公表しないでここまできた。
そんな私が、左手の薬指に、
いかにもな有名ブランドのマリッジリングをしているのだ。
察してくれたら、楽なのにな。
と思っていたのが本音だ。
が、世間はそこまで甘くはできていないらしい。
さらには私のキャラクターの問題だろうか。
気さくに「結婚したの?」なんて聞いてくる人はいないのだ。
だからきっと、
噂をされまくっているのだと思う。
あなたの名字の、あの、いかにもなリングはなんなのか、
と。
実は、こうして呼び出されるのは、
上川くんが初めてでは無い。
かれこれ5人目くらいだろうか。
みんなして、その指輪はなんだと言ってくるのだ。
ただ、公表に関しては、社長の許可というか、
共通の認識にしておく約束があったりする。
だから、濁し続けてきたのだ。
これまでと同様に、そう返事をする。
こんな面倒になるのなら、
とっとと公表しておけば良かった、と後悔する。
叶くんと公表時期が被ると、疑う人も出てきちゃうかもしれない、と、余計な気を回したことが間違いに思えてくる。
歩き出そうとする私を、
上川くんは私の手首を掴んで止めた。
掴まれていた手首を強く引っ張られ、
背中を壁に打ち付けられた。
壁ドンとか、
……近くて気持ち悪い。
不機嫌を隠さずにため息を吐いた。
……それがお気に召さなかったのか。
上川くんは強引に、
私の顎を手で押さえ、
乱暴にキスをしてきた。
ほんの一瞬、唇は触れただけだ。
それでも、嫌悪感が強くて、
反射的に、手が出た。
パシン、と乾いた音が狭い会議室に響く。
叩かれたのがショックだったのだろうか。
上川くんは、頬を抑えて立ち尽くしていた。
そう伝えて、会議室を出た。
叶くんの唇で上書きしてもらいたい。
叶くんではない人間の体温が、心底気持ち悪い。
定時よりも少し早かったけれど、
仕事を早めに終わらせて帰宅することにした。













編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。