第30話

【続編 #1】公表 その1
5,143
2024/12/31 02:11 更新
同じ上層部役員の上川くんに呼び出されて、
小さな会議室にいる。
あなた
なに……?
仕事中に呼び出されたのにも関わらず、
なぜ呼び出されたのかなかなか口を開かない。

故に、私は不機嫌を隠さずに、
窓の外を見ながら問うた。
上川
あー……、その、さ。

あなたの名字のその指輪ってさ
またか。
と、思った。


指を刺されながら言われたそれは、
私の左手の薬指にあるものだ。


結婚指輪である。



可愛い可愛い叶くんと結婚してから、
既に、3ヶ月が経った。


なのだが。


私は苗字も住所も変わらなかったため、
特に職場では公表しないでここまできた。



そんな私が、左手の薬指に、
いかにもな有名ブランドのマリッジリングをしているのだ。


察してくれたら、楽なのにな。
と思っていたのが本音だ。

が、世間はそこまで甘くはできていないらしい。


さらには私のキャラクターの問題だろうか。
気さくに「結婚したの?」なんて聞いてくる人はいないのだ。



だからきっと、
噂をされまくっているのだと思う。



あなたの名字の、あの、いかにもなリングはなんなのか、
と。


実は、こうして呼び出されるのは、
上川くんが初めてでは無い。

かれこれ5人目くらいだろうか。

みんなして、その指輪はなんだと言ってくるのだ。


ただ、公表に関しては、社長の許可というか、
共通の認識にしておく約束があったりする。

だから、濁し続けてきたのだ。

あなた
……解釈はご自由に
これまでと同様に、そう返事をする。
上川
ご自由に、って……。

結婚、したの、か?
あなた
これ以上答えることないから。

話がそれだけなら、仕事戻らせてもらうね
こんな面倒になるのなら、
とっとと公表しておけば良かった、と後悔する。


叶くんと公表時期が被ると、疑う人も出てきちゃうかもしれない、と、余計な気を回したことが間違いに思えてくる。
あなた
(社長に相談しよ……。早いとこ公表したい)
上川
まっ、待ってくれ!
歩き出そうとする私を、
上川くんは私の手首を掴んで止めた。
上川
お、俺、

ずっとあなたの名字のこと……
あなた
私の事好きだって言うつもりなら、
せめて一人称を「僕」にして出直せ
上川
え……
あなた
もういい?
上川
好きだったんだ、ずっと!
あなた
……ごめん
上川
っ、いやだ……!


掴まれていた手首を強く引っ張られ、

背中を壁に打ち付けられた。


壁ドンとか、
……近くて気持ち悪い。



不機嫌を隠さずにため息を吐いた。



……それがお気に召さなかったのか。





上川くんは強引に、
私の顎を手で押さえ、

乱暴にキスをしてきた。



ほんの一瞬、唇は触れただけだ。
それでも、嫌悪感が強くて、


反射的に、手が出た。



パシン、と乾いた音が狭い会議室に響く。
あなた
(気持ち悪い)
叩かれたのがショックだったのだろうか。
上川くんは、頬を抑えて立ち尽くしていた。
あなた
最低。
叩いたこと、謝らないから
そう伝えて、会議室を出た。





あなた
(早く帰りたい)
叶くんの唇で上書きしてもらいたい。
叶くんではない人間の体温が、心底気持ち悪い。



定時よりも少し早かったけれど、
仕事を早めに終わらせて帰宅することにした。

プリ小説オーディオドラマ