第43話

兄ちゃんの友達
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2026/04/26 15:27 更新
スバルサイド

エンジンをかけて、ゆっくり車を出す。

動き出した瞬間から、横で亮の体がまた一気に揺れ出す。

シートベルトに引っ張られて戻って、また前に出ようとして、戻って、また揺れる。

「ぶう!!」

「車や」

「いく!!」

「行く」

声も動きも、全部前のめりや。

落ち着く方向には行ってへん。

むしろ、これから何かあるっていう空気で、さらに上がってる。

「座る」

「ちゃう!!」

「座る」

「いく!!」

「行くけど座る」

「……」

一瞬だけ止まる。

でも、すぐまた揺れる。

「にちゃん」

「なに」

「ひと!!」

「迎えに行く人」

「ひと!!」

「そう」

窓の外を見て、またこっちを見る。

落ち着かん。

ここで一回、言葉を入れる。

入るかどうかは関係ない。

「亮」

「なに」

「これからな、人来るやろ」

「ひと!!」

「そう。その人な」

「ひと」

「兄ちゃんの仕事で関わってる人や」

「……にちゃん?」

「兄ちゃんと一緒におる人」

「……」

「亮みたいに、しんどい時ある子やねん」

「……りょう?」

「そう。亮みたいに、しんどいってなることある」

「……」

反応は薄い。

でも続ける。

「せやからな」

「なに」

「痛いことはせえへん」

「いたい?」

「叩いたり、押したり、ドンしたり」

「どん!!」

「それはクッションや」

「……どん」

「人にはせえへん」

「……」

一瞬、間。

でもすぐに口が動く。

「いたいあかんしよ!!」

予想通り。

「言うだけな」

「いたいあかんしよ!!」

「それふざけてるやつやろ」

「……」

「ほんまにやったらあかん」

「……」

「亮、兄ちゃんにはやるやろ」

「……にちゃん」

「でも人にはせえへん」

ここは、もうわかってる。

この子は外には向けへん。

特に初対面はなおさらや。

せやから、強くは言わん。

置くだけ置く。

「亮」

「なに」

「タッチはええ」

「タッチ」

「優しいやつな」

「やさしい?」

「そう」

自分の手を軽く叩く。

「これ」

「……」

亮は見るだけ。

やらへん。

それでええ。

車はそのまま住宅街に入る。

スピードを落とす。

「もうすぐや」

「いく!!」

「静かに行く」

「ちゃう!!」

「ちょっと小さい声」

「……ちいさい」

一瞬だけ声が落ちる。

でもすぐ戻る。

「いく!!」

「はいはい」

こうきの家の前に止める。

「着いた」

「ひと!!」

「そう」

「いく!!」

「待つ」

「いや!!」

袖を掴む。

ぐいっと引く。

「にちゃん!!」

「すぐ戻る」

「ちゃう!!」

「おる」

「おる?」

「おる」

「ちゃんと?」

「ちゃんと」

一瞬だけ手が緩む。

その隙に外に出る。

インターホンを押す。

すぐにドアが開く。

こうきが顔を出す。

「おはよ」

「おはよ!なあすばる!」

いきなり距離近い。

でも目は少し泳いでる。

「俺ほんまに来てよかったやつ?」

「よかったやつや」

「ほんまに?迷惑ちゃう?」

「全然ちゃう」

「でもさ、なんか急に行くってなってもうてさ」

言いながら、もう外に出てきてる。

体は前に出てる。

来る気は満々や。

「大丈夫やって」

「なあ今日何するん?」

もう次の話に行ってる。

「とりあえず家行く」

「お、ええやん!」

ぱっと表情が明るくなる。

そのまま車の方を見る。

中から、亮の声。

「にちゃん!!」

こうきがびくっとする。

でもすぐ笑う。

「うわ、めっちゃ元気やん!」

さっきの不安はもう半分飛んでる。

「元気すぎるな」

「なあ、あれ亮くんやろ?」

「そう」

「思ってたよりでかいな」

「でかいで」

「うわ、なんかおもろいな」

興味はめっちゃある。

でも直接はいかん。

全部俺に言う。

「乗るで」

「おう!」

後部座席のドアを開ける。

こうきが乗る。

その瞬間。

車の中の空気が変わる。

亮の動きが、一瞬止まる。

完全に固まるわけじゃない。

でも、明らかに警戒してる。

体が少し引く。

ベルトに沿って、距離を取る。

でも視線は行ってる。

「にちゃん!!」

声は俺に向いたまま。

完全に俺に張り付いてる。

「亮」

「なに!!」

「人来た」

「ひと!!」

「そう」

「にちゃん!!」

名前は出えへん。

出さへん。

こうきが後ろで小声で言う。

「なあすばる」

「ん?」

「俺、今話しかけた方がええ?」

「まだええ」

「やんな」

でも顔はめっちゃ気にしてる。

ちらちら見る。

「なあ、めっちゃ見てくるな亮くん」

「見てるな」

「なんかかわいいな」

ちょっと笑う。

でも直接は行かん。

「なあすばる」

「ん?」

「俺、亮くんと仲良くなれる?」

「なるで」

「ほんまに?」

「時間かかるけどな」

「そっか」

少し笑う。

「なんか楽しみやわ」

その言葉に、亮が一瞬だけ後ろを見かける。

でもすぐ前に戻る。

「にちゃん」

「なに」

「おる」

「おる」

「ちゃんと?」

「ちゃんと」

確認を挟む。

それで安心する。

また前を見る。

「ぶう!!」

「帰るで」

「いく!!」

こうきが後ろからまた言う。

「なあすばる」

「ん?」

「亮くんってさ、ずっとにちゃんって呼ぶん?」

「そう」

「へえ」

「俺のことは多分まだ呼ばん」

「そっか」

「でも聞いてるで」

「ほんま?」

「全部聞いてる」

「じゃあ俺めっちゃ喋っとこ」

そのまま少し声を張る。

「なあすばる!」

「なに」

「今日なんかするん?」

「とりあえず家」

「おっけー!」

その会話、全部亮は聞いてる。

でも、入ってはない。

それでもええ。

「亮」

「なに」

「今な、三人やで」

「……さんにん?」

「そう」

「にちゃん」

「おる」

「ひと」

「おる」

それだけ。

それで十分や。

車はそのまま家に着く。

エンジンを止める。

一瞬、静かになる。

その静けさの中で、三人の空気がまた少し動く。

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