スバルサイド
家の前に車を止めて、エンジンを切る。
一瞬、静かになる。
その静けさのあと、すぐ来る。
「にちゃん!!」
「なに」
「ついた!!」
「着いた」
「いく!!」
体が前に出る。
でもベルトに引っ張られて止まる。
「待つ」
「いや!!」
「ベルト外す」
カチッ。
外した瞬間、勢いそのままに飛び出そうとする。
「おいおい、飛び出すな」
腕で軽く止める。
「いく!!」
「ドア開けるまで待つ」
「いや!!」
「待つ」
一瞬だけ止まる。
でも足はもう動きたがってる。
ドアを開ける。
その瞬間、亮が一気に外へ出る。
「歩く」
「いく!!」
「歩く」
ほぼ走りながら玄関へ向かう。
「走らん」
「いく!!」
「歩く」
言葉は返るけどスピードはギリギリや。
玄関の前で止まって、ドアに手をかける。
ガチャガチャする。
「待つ」
「いや!!」
「開けるから」
鍵を回す。
ガチャ。
ドアを開けた瞬間、亮が中に飛び込む。
靴のまま一歩入って、ぴたっと止まる。
くるっと振り返る。
「にちゃん!!」
顔が変わってる。
さっきまでの不機嫌とも違う、警戒とも違う。
変に上がってる。
「人おる!!」
「おる」
「ひと!!」
声がでかい。
テンションが一段上がる。
「亮、靴」
「ちゃう!!」
「靴脱ぐ」
その場でぴょんぴょんする。
落ち着かへん。
視線が玄関とリビングと外を行ったり来たりしてる。
でも外——こうきの方には近づかへん。
距離はちゃんと取ってる。
「亮」
「なに!!」
「靴脱ぐ」
「ちゃう!!」
片足を持つ。
ぽん、と脱がせる。
「一個」
「……いっこ」
もう片方。
「いや!!」
「もう一個」
脱がせる。
「終わり」
「……おわり?」
「靴終わり」
その間に、こうきが外から入ってくる。
「おじゃましまーす!」
声は普通に大きい。
その声に、亮がぴたっと止まる。
振り返る。
じっと見る。
でも、近づかへん。
そのまま俺の方に戻ってくる。
「にちゃん」
「なに」
「ひと!!」
「おる」
「おる!!」
テンションは高いまま。
でも距離は詰めへん。
それが亮や。
こうきは玄関で靴を脱ぎながら、きょろきょろしてる。
「なあすばる」
「ん?」
「めっちゃええやん、この家」
「普通や」
「いや、俺んとこより全然ええで」
言いながら、上がってくる。
でも亮には行かへん。
全部俺に話しかける。
「なあ、ここ座ってええ?」
「ええで」
リビングに入る。
亮はその手前でうろうろしてる。
入る、戻る、また入る。
完全に落ち着かん。
「にちゃん!!」
「なに」
「ひと!!」
「おる」
「ひとおる!!」
「おる」
同じこと何回も言う。
そのたびに確認してる。
「にちゃん」
「なに」
「おる」
「おる」
「ちゃんと?」
「ちゃんと」
こうきがソファの近くまで来て、また止まる。
亮との距離はまだある。
でも気にはしてる。
ちらちら見る。
「なあすばる」
「ん?」
「亮くんめっちゃ元気やな」
「元気すぎるな」
「なんかおもろいな」
笑いながら言う。
その笑い声に、亮がまた反応する。
振り返る。
じっと見る。
でもすぐ目を逸らして、俺に戻る。
「にちゃん」
「なに」
「いく!!」
「どこ行くねん」
「ひと!!」
「ここにおる」
「おる!!」
テンションがまた上がる。
その時や。
こうきが「あ、そうや」って顔する。
リュックをガサガサやり始める。
「なあすばる」
「ん?」
「これな」
中からちょっと大きめのレジ袋を出す。
コンビニとかスーパーのやつ。
中身パンパンや。
「適当に買ってきた」
差し出してくる。
「別にそんな気使わんでええのに」
思わず言う。
「いや、なんかさ」
こうきが少し笑う。
「みんなで食べたら楽しいかなぁ思って」
袋を受け取る。
中を見る。
お菓子が大量。
ポテチやらチョコやら、いろんなのが雑多に入ってる。
その中に、プリンが三個。
ジュースが二本。
缶コーヒーが一本。
「めっちゃ買ってるやん」
「いや、適当やで」
「適当でこれか」
「なんかあった方がええかな思って」
亮がその袋に反応する。
すっと近づいてくる。
でも、こうきには行かへん。
袋を見る。
「にちゃん」
「なに」
「これ!!」
「お菓子や」
「おかし!!」
一気にテンション上がる。
さっきまでの「ひと」よりも強い。
「おかし!!」
「そう」
袋を少し上げる。
亮が手を伸ばす。
「待つ」
「いや!!」
「まだ」
「おかし!!」
「後で」
「ちゃう!!」
その場でぴょんぴょんする。
「にちゃん!!」
「なに」
「おかし!!」
「見えてる」
「する!!」
「今せえへん」
「なんで!!」
「先に落ち着く」
「ちゃう!!」
こうきが後ろから笑う。
「めっちゃ好きなんやな」
「めっちゃ好きやで」
「ええやん、いっぱいあるで」
その一言で、亮がまた反応する。
振り返る。
こうきを見る。
一瞬、目が合う。
でもすぐ逸らす。
また俺に戻る。
「にちゃん」
「なに」
「おかし!!」
「後で」
「ちゃう!!」
「後で」
「ちゃう!!」
こうきがまた言う。
「なあすばる」
「ん?」
「俺これ勝手に出してええ?」
「ええで」
「ほんま?」
「ええって」
「よっしゃ」
そのまま袋を開け始める。
ガサガサ音がする。
その音に、亮の視線が完全に持っていかれる。
でも距離は詰めへん。
少し離れたまま、じっと見る。
「にちゃん」
「なに」
「おかし!!」
「出てるな」
「おかし!!」
こうきがポテチを一つ取り出す。
「これ食べる?」
亮には直接行かん。
俺に言う。
「食べるで」
「亮くんこれ好き?」
「好きや」
その会話、亮は聞いてる。
でも答えへん。
ただ見てる。
「なあすばる」
「ん?」
「これ楽しいな」
こうきが笑う。
「まだ始まってもないで」
「もう楽しいわ」
亮はその笑い声にまた反応する。
振り返る。
じっと見る。
でもまだ、距離はある。
そのまままた俺に戻る。
「にちゃん」
「なに」
「おる」
「おる」
「ちゃんと?」
「ちゃんと」
三人、同じ空間にいる。
でも、まだ線は繋がってへん。
亮は俺に張り付いたまま。
こうきは俺に話しかけ続ける。
その間に、お菓子の袋が広がってる。
距離はある。
でも、ちゃんと同じ場にいる。
ここからや。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。