第47話

兄ちゃんの友達
4
2026/04/27 10:46 更新
スバルサイド

電車を転がす音が、プレイマットの上で何回か続いた。

ころころ。

止まる。

また、ころころ。

亮は自分の電車を持って、線路の上に置いたり、少しずらしたり、また俺の方を見る。

「にちゃん」

「なに」

「でしゃ」

「電車やな」

「ちゃんと?」

「ちゃんと電車」

こうきはその少し向こうで、まだ嬉しそうに線路を見ていた。

「なあすばる」

「ん?」

「これ、ほんまに店開けるって」

「まだ言うてる」

「いや、ほんまやって。おもちゃ多すぎやろ」

「家や」

「家にある量ちゃうねん」

こうきは笑いながら、電車の横にあった大きめのブロックに目を向けた。

「これもやってええ?」

「ええで」

「ブロックやんな?」

「ブロックやな」

「俺これできるで、多分」

その“多分”がこうきらしい。

自信はある。

でも、ちょっと不安も混ざってる。

でもやりたい。

「じゃあやってみ」

「見ててな」

「見てる」

「ちゃんと?」

「ちゃんと」

こうきはブロックをいくつか手元に集める。

赤、青、黄色、緑。

色のある大きめのブロック。

小さい子用みたいに見えるけど、こういう大きいパーツの方が扱いやすい。

向きもわかりやすいし、力加減も多少雑でもはまる。

こうきは最初、勢いよく二つ合わせようとした。

でも向きが違う。

カチッとはまらない。

「あれ?」

「向き逆」

「逆?」

「そっちちゃう」

「こっち?」

「それ」

カチッ。

「あ、できた!」

こうきの声がぱっと明るくなる。

「すばる、できたで!」

「見た」

「俺、やっぱできるわ」

「今ちょっと聞いたやん」

「聞いたけど、できたもんはできたやん」

「せやな」

こうきは得意そうに笑う。

こうきはこういうところがある。

自分でできるって言いたい。

でも、途中でわからんくなったら普通に聞く。

聞いたことを恥ずかしがるより、できたことを喜ぶ方が強い。

それがこの子のいいところや。

一方で、亮は最初、ブロックにはあまり入ってこなかった。

電車を持ったまま、俺のそばにいる。

目はこうきの手元へ行ってる。

でも、自分からはまだ行かない。

「亮」

「なに」

「ブロック見てる?」

「……」

「見てるな」

「にちゃん」

「おる」

「おる?」

「おる」

亮は俺の膝に少し体を寄せたまま、電車を握っている。

こうきが何かしているのは気になる。

でも、こうきのそばに行くほどではない。

知らん人。

でも、さっきから同じ場所にいる人。

自分のおやつの近くにいた人。

自分のおもちゃを触っている人。

まだ分類はその程度やと思う。

「なあすばる」

「ん?」

「これ、何作ろ」

「好きなん作ったらええやん」

「家」

「家?」

「家作る」

「ええやん」

「亮くんの家」

「それここや」

「じゃあ、すばるの家」

「それもここや」

「じゃあ……店」

「また店か」

「おもちゃ屋」

「どんだけ店開きたいねん」

こうきは楽しそうに笑いながら、ブロックを積み始める。

最初は横に並べる。

次に上に乗せようとして、崩れる。

「あっ」

ブロックがぱらっと倒れる。

「倒れた」

「倒れたな」

「なんで?」

「土台細い」

「土台?」

「下が少ない」

「広くしたらええ?」

「そう」

「なるほどな」

こうきは真剣に聞いて、下の段を広げる。

でも今度は色にこだわり始める。

「これさ、赤ばっかやと変?」

「変ではない」

「でも青も入れたい」

「入れたらええやん」

「でも青どこや」

「そこ」

「これか」

青を取る。

また積む。

「すばる、これ合ってる?」

「合ってる」

「ちゃんと?」

「ちゃんと」

「俺、結構うまいやん」

「うまいな」

「なあ、亮くん見てる?」

こうきが少し声を落として聞く。

「見てるで」

「ほんま?」

「めっちゃ見てる」

こうきは嬉しそうにする。

でも、亮に直接「見て」とはまだ言わない。

それが自然にできてる。

ちゃんと待ててる。

「亮」

「なに」

「こうき、ブロックしてるな」

「……」

「ブロック」

「……ぶろ」

小さく音だけ出る。

「そう。ブロック」

亮は電車を持ったまま、少しだけ体を前に出す。

でもすぐ戻る。

「にちゃん」

「なに」

「これ」

電車を見せる。

「電車やな」

「ちゃんと?」

「ちゃんと電車」

まだ自分の世界に戻る。

でも、こうきのブロックは気になる。

その行ったり来たりが、亮らしい。

こうきはブロックを積みながら、また俺に話す。

「なあすばる」

「ん?」

「俺さ、こういうの好きやわ」

「作る系?」

「うん。なんか、できたってなるやん」

「なるな」

「でも途中でわからんくなる」

「今もな」

「そう。でも聞いたらできる」

「それでええやん」

「ええん?」

「ええよ」

「じゃあ俺、聞く係もできるな」

「なんやそれ」

「わからんこと聞く係」

「それ係なん?」

「係やろ」

こうきは自分で笑う。

その明るさの横で、亮がじっとブロックを見る。

こうきが作ったものは、まだ不格好やけど、何となく形になってきている。

低い壁みたいなもの。

店と言えば店。

家と言えば家。

「できてきたで」

こうきが嬉しそうに言う。

「すばる、見て」

「見てる」

「亮くんも見てる?」

「見てると思うで」

「ほんま?」

「うん」

亮は、その言葉に反応したのか、ふっと顔を上げる。

こうきの手元を見る。

そして、急に動いた。

電車を持ったまま、ブロックの方へ手を伸ばす。

「お」

こうきが一瞬止まる。

亮の手が、こうきの作ったブロックの端に触れる。

そっとではない。

ちょっと強い。

ぐらっと揺れる。

「あっ」

こうきが声を出す。

ブロックが半分崩れる。

ガラッ。

亮はびくっとして、すぐ俺の方を見る。

「にちゃん」

「おる」

「……あかん?」

「気になったんやな」

先にそう返す。

こうきは崩れたブロックを見ている。

怒ってはいない。

ただ、何が起きたか確認してる顔。

「なあすばる」

「ん?」

「今の、壊した?」

「壊したっていうより、気になって触った」

「そっか」

こうきはすぐ受け取る。

「亮くん、気になったんや」

「そうやと思う」

「じゃあええか」

「ええん?」

「また作れるし」

こうきは崩れたブロックを拾い始める。

「俺、もう一回作るわ」

「えらいな」

「だって気になったんやろ?」

「たぶんな」

「ほな、しゃーないやん」

こうきはほんまにあっさりしてる。

譲る概念もある。

やり直すこともできる。

怒りより、「もう一回できる」が先に来る。

それがこうきの強さやと思う。

亮はまだ俺の近くに戻って、少し固まってる。

「亮」

「なに」

「触ったな」

「……」

「気になったな」

「……ちゃんと?」

「ちゃんと気になった」

「……あかん?」

「あかんちゃう。ただ、こうき作ってたやつやから、ゆっくり触る」

「……ゆっくり」

「そう」

「……にちゃん」

「おる」

こうきがそのやり取りを聞きながら、ブロックをまた積む。

今度はさっきより少し離れた位置に置く。

でも、亮から全然見えない場所にはしない。

「ここならええ?」

俺に聞く。

「ええよ」

「亮くんも見える?」

「見える」

「じゃあここ」

こうきはまた作り始める。

「今度は壊れてもええように、低くするわ」

「考えたな」

「俺、学習した」

「ええやん」

「ちゃんと?」

「ちゃんと」

亮はその様子をじっと見る。

今度は手を出さない。

でも、見てる。

こうきが一個積む。

「できた」

もう一個積む。

「できた」

三個目で少しズレる。

「これ斜め?」

「斜めやな」

「でも味ある?」

「あるな」

「じゃあこのまま」

こうきは楽しそうに続ける。

その横で、亮が急に手元のブロックを一つ取る。

さっき俺が渡していたやつや。

自分の前に置く。

上にもう一つ乗せようとする。

でもうまくはまらない。

「にちゃん」

「なに」

「これ」

「はめる?」

「する」

「ここ」

手を少し添える。

カチッ。

「できた」

「……できた?」

「できた」

「ちゃんと?」

「ちゃんと」

こうきがぱっと顔を上げる。

「亮くんもできた?」

俺を見る。

「できた」

「おお!」

こうきは嬉しそうに言う。

「すごいやん」

亮はこうきに返さない。

でも、ブロックをじっと見ている。

自分でできたもの。

小さいけど、形になったもの。

「にちゃん」

「なに」

「これ」

「ブロックできたな」

「ちゃんと?」

「ちゃんとできた」

こうきが小さく笑う。

「俺と一緒やな」

亮は返事しない。

でも、その言葉の音だけは残ったのか、一瞬だけこうきを見る。

「一緒」

こうきが俺に向かって言う。

「なあ、今ちょっと一緒やんな?」

「一緒っぽいな」

「やった」

こうきは自分の作った低い壁みたいなブロックを見せる。

「すばる、これ俺の店」

「店なんや」

「うん。おもちゃ屋」

「結局店か」

「亮くんのやつは?」

「それは亮のやつ」

「亮くんの店?」

「まだ店ではないな」

「じゃあ、屋台」

「なんでや」

「小さいから」

「失礼やな」

こうきは笑う。

亮は意味はわかってへん。

でも、こうきの笑い声に顔を上げる。

笑い声。

ブロック。

同じ場所。

少しずつ、こうきの存在が“怖い知らん人”から“ここにいて音がする人”になってきてる。

それで十分やった。

その時、こうきがふと、プレイマットの端に置いてある別のおもちゃに気づいた。

「あれ何?」

「どれ」

「あの銃みたいなやつ」

「ああ、バブルガン」

「ばぶるがん?」

「シャボン玉出るやつ」

こうきの顔が一気に明るくなる。

「え、なにそれ。めっちゃ楽しそうやん」

「外用やけどな」

「外でやるやつ?」

「部屋でやったら床ベタベタなる」

「じゃあ外行く?」

「今すぐは行かん」

「えー」

「すぐ行きたがるな」

「だってシャボン玉やで?」

こうきは完全に食いついてる。

ブロックも楽しい。

でも、バブルガンはもっと派手でわかりやすい。

押したら出る。

見える。

追える。

こうきの“見て見て”にも、亮の視覚的な反応にも、たぶん合う。

ただ、今はまだ家に入ってそんなに時間が経ってへん。

亮も上がってる。

外に出すにはまだ早い。

「後でな」

「ちゃんと?」

「こうきもそれ言うんか」

「言うで。後でちゃんとやろ」

「後でな」

「よし」

その会話に、亮が反応する。

「にちゃん」

「なに」

「あとで?」

「後で」

「ちゃんと?」

「ちゃんと」

亮が拾った。

内容をどこまでわかってるかは別として、“後で”“ちゃんと”は入った。

こうきがそれに気づいて、小さく笑う。

「今、亮くんも後でって言った?」

「言ったな」

「俺と一緒やん」

亮は返さない。

でも、手元のブロックをもう一回触る。

「にちゃん」

「なに」

「これ」

「ブロック」

「する」

「するな」

こうきも自分のブロックを直す。

「俺もする」

別々に作る。

時々壊れる。

時々見る。

時々俺を挟む。

直接一緒に遊んでるわけではない。

でも、さっきより明らかに近い。

こうきは何かできるたびに俺を呼ぶ。

「すばる、見て」

「すばる、これ合ってる?」

「すばる、俺できたで」

亮はそのたびに、少しだけ顔を上げる。

全部は拾わない。

でも、音は入ってる。

「にちゃん」

「なに」

「ちゃんと?」

「ちゃんと見てる」

「おる?」

「おる」

こうきが少し離れたところで言う。

「俺も見てるで」

亮は返さない。

でも、ほんの一瞬だけこうきの方を見る。

それだけ。

「今見た」

こうきが小声で言う。

「見たな」

「やば」

「大げさやな」

「嬉しいねん」

「そっか」

「うん」

こうきはまたブロックに戻る。

亮もブロックを触る。

俺はその真ん中で、二人の間を少しずつつなぐ。

ぐいっと近づけるんやなくて、触れそうで触れない距離を保つ。

今日の二人には、それくらいがちょうどいい。

「すばる」

「ん?」

こうきが自分の小さなブロックの建物を持ち上げる。

「これ、俺の店完成」

「完成したんや」

「うん。ちょっと傾いてるけど」

「味あるな」

「やろ」

こうきが嬉しそうに笑う。

その横で、亮が自分のブロックを二つだけ重ねて持ち上げる。

「にちゃん」

「なに」

「これ」

「亮のもできたな」

「ちゃんと?」

「ちゃんとできた」

こうきがそれを見て、小さく言う。

「亮くんのも完成やな」

亮は返さない。

でも、ブロックを持ったまま、ほんの少しだけこうきの方へ体を向けた。

それが今日の今の限界やと思う。

十分すぎるくらいやった。

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